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世界初の姉妹山提携富士山・レーニア山

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2003/09/09

世界初の姉妹山提携富士山・レーニア山

 




 2003年2月日、東京・早稲田大学にて富士山とレーニア山の姉妹山提携の調印式が行なわれた。姉妹都市や姉妹村などよく耳にするが山と山との姉妹提携は世界初の試みだ。レーニア山サイドからはレーニア国立公園のデイブ・ユベルアガ長官などが出席され、日本サイドのNPO法人富士山クラブと調印を交わした。僕自身もこの調印式とシンポジウムに参加させていただいたがレーニア国立公園の徹底した管理システムに感心させられた。日本の環境省の職員もシンポジウムに参加されていたが、僕を含めた日本人パネリストやアメリカのレインジャー達からその杜撰な日本の国立公園の管理状況に対して追求されると額と手に汗をびっしょり、かきながらなんとも自信なさそうに
「日本の状況から致しましてこの現状が精一杯でありまして・・・」
と答えていたのがなんとも情けなく、またそれが日本の官僚の姿を象徴しているようで印象的だった。
「アメリカの国立公園は素晴らしい!」
とよく耳にするけれど、確かにそうなんでしょうが、しかし、アメリカさんは素晴らしい!で片付けちゃいけないだろう。我が国日本にも素敵な自然は沢山ある。北は流氷から、南はさんご礁の島まであるんだから・・・。

 しかし、その素敵な自然を生かすも殺すも結局はそこに住む人々のあり方だ。
調印式とシンポジウムでその堂々とした彼ら(レーニア国立公園のレインジャー)の姿に実際にこの目でレーニア国立公園を見たい!確かめたい!と思い8月16日にアメリカ・シアトルに向かったのである。

 我々より一日前に富士山クラブのツアーが現地入りして、途中から合流したのだが、みなさんの第一声が
「昨日、イチローが満塁ホームラン打ったんですよ!」
だった。だから俺もマリナーズの試合観にいきたかったのに・・・。それにしてもシアトルの町並みの綺麗なこと。車でグルグル回ってみたけれど、近づかなければ家が見えないほど、庭に大きな木が植えられている。自然に囲まれた都市。そして木が多いせいか空気が爽やかで美味しい。大都市にいながらも何度も深呼吸していた。

 レーニア国立公園を訪れる人は100万人、レーニア山への登山者は一万人を超す。シアトル周辺に移り渡った移民(日系人)は富士山に似たレーニアを地元「タコマ市」の名前を絡めて「タコマ富士」と呼びながら遠い祖国に想いを寄せていたのだ。しかし、その本家である日本の富士山の散々たる姿に胸を痛めつかられていた。やはり日本人にとって富士山は心の故郷なのだ。



 


「レインジャーの存在」

 中3日間のレーニア山滞在であったけれども、レーニア国立公園のデイブ・ユベルアガ長官が自ら案内役となりレインジャーの役割や市民によるボランティア活動を見学させて頂いた。まず、感心させられたのが徹底されたレインジャーの仕組みだ。国立公園のゲートでは入園料金(約1000円)を徴収する。そしてレインジャーによるパトロール、そしてこれまた驚いたのが小中学校の教員を招いて子供達にどのように環境教育を行うかをレインジャー達が教員相手に講習していた。以前に土石流の被害に襲われたレーニア山の土で用具の中に山をつくりそこに試験管から水を流し込みどれぐらいの水量で土砂崩れが起こるのかを実験してみせていた。このように教員に対して行われる環境教育。教員方の表情も真剣そのものだ。被害にあっている動植物への対応はさらに徹底しており、あちらこちらにハイキングコースが設備され、植物を踏み荒らさないために登山者がコースから外れるのを厳しく禁止している。違犯した者はレインジャーに厳重注意され悪質な行為が行われればその場でレインジャーによって逮捕される。実際に野生動物に餌をあげてはならないのに熊に餌をあげていた観光客は逮捕された。入園者が増えすぎると長官の判断によって入場者数も制限される。そして登山者にはし尿の持ち帰りを義務とし、ビニール袋が無料で配布されている。以前、この国立公園内にもスキー場などがあったようだが、国がその土地を買い取りスキー業者には国立公園から退去してもらったとか。長官に
「よくそんな事ができましたね」
と聞けば
「国立公園のなかにスキー場はいらない。ここにあるべきものじゃない。だったら他に行けばいい。当たり前さ!」
と実にシンプルな返事が返ってきた。彼らの発想はまず環境保護があって次に観光開発だ。日本のように観光開発が進みすぎて慌てて環境保護といった取り組みが発生するのとは根本的に違う。

 レーニア国立公園では何人ものレインジャーが役割分担してその分野の専門家として活動していた。日本の国立公園でレインジャーなど目にした事がない。白神山地では青森県サイドに環境省のレインジャーはたったの一人。屋久島も同様だ。そして小笠原諸島なんかはもっと酷いもので環境省は世界遺産に登録しようとリストに含めたもののレインジャーが一人も駐在していない。そもそも環境省のレインジャーは数年おきに転勤してしまうためにほとんどそこの自然を知らないまま他の国立公園に移動してしまう。つまり行政サイドのその国立公園のプロがいないのが現状だ。そして白神山地なんかは一人のレインジャーが担当しているために日々デスクワークに追われ現場に訪れることはめったにないのだ。



 


「ボランティアの存在」

 アメリカの国立公園も年々国からの予算が減らされている。したがってレインジャーの人数もけっして足りているわけじゃない。そこで大きな役割を果たしているのが市民ボランティアの存在だ。ボランティア団体や個人で参加したい人はまず国立公園のレインジャーへ連絡を入れる。そこで自分たちには何ができるかと伝えるのだ。そしてレインジャーが各ボランティアを適所に配属させるのだ。レインジャーが核となってボランティアをまとめるので活動に無駄がない。行政と市民との見事な連携プレイだ。デイブ・ユベルアガ長官は「国立公園はみんなの宝物だからみんなで力を合わせて守るこれも当たり前のこと」と我々に伝えてくれた。その中で長官が「日本からもこの10年間、レーニア山の為に汗を流してくれているとっても大切な仲間達がいる」と紹介されたのがボランティア団体「ジェイ・ビッパ」だった。早稲田大学の学生が中心となり10年前からレーニア国立公園でのボランティア活動が始まったのだ。彼らの活動を見させていただいたけれど思わず目頭が熱くなった。汗だくになりながら荒れた登山道の整備など泥だらけになりながら作業していた。しかもその半分が女性陣。彼らの活躍が富士山とレーニア山の姉妹山提携へと結びつけたのだ。同じ日本人として彼らが10年間もの間夏に続けられてきたボランティア活動に対して誇りを感じた。国際社会でよく日本は「お金しか出さない!」と批判されるけれどそんなことはない。よく
「日本の若者は・・・」
と嘆くおじさん方がいるけれどもそんな悲観的になることもない。
このレーニア国立公園の視察ツアーは僕らに沢山のヒントをくれた。レインジャーの存在なしに国立公園の保護はありえない。そして行政とボランティア、そしてNPOとの連携プレイなど、富士山のみならず日本全国の自然保護に対するアドバイスを頂いた。レーニア山と姉妹提携を結んだ富士山。いつまでも姉の背中ばかりを眺めていてはいけない。妹として恥じることがないよう、これから堂々と世界の富士山として生まれ変わっていかなければならないのだ。以前から事あるたびに「レインジャー」の存在意義を訴えてきた。しかし、その度に行政サイドからはつれない返事ばかりであったが、このレーニア国立公園でレインジャーへの思いが確かなものとなった。


 

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