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まもなくトキ放鳥! 野口健環境学校・佐渡島での取り組み

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2008/08/31

まもなくトキ放鳥! 野口健環境学校・佐渡島での取り組み

 いよいよ新潟県佐渡島にて9月25日にトキ(鴇)が放鳥される。トキの野生復帰に向けて地元のNPO団体、農家の方々と連携し、4年前からトキの餌場となる棚田作りに加わってきた。今回の野口健環境学校(主催・NPO法人セブンサミッツ持続社会機構 協賛・コスモ石油エコカード基金)はトキ放鳥を1つのテーマにし、高校生・専門学校・大学生の学生合計15人が集まり8月27~29日に佐渡島で行われた。

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 日本でのトキ絶滅に関しては様々な原因があるとされている。よく農薬などによる環境破壊によってトキが絶滅したと指摘されているが、「環境問題」の定義によるもの。そもそもトキは人間が手を加えてきた里山に多く生息してきた。棚田などがその典型であり、人が木を切り拓き炭や水田を作ってきた。この部分に関してみれば人の手によって自然環境が変化しているわけで、本来の自然環境の形、また生態系を変えたという観点で見れば、棚田作りは「自然環境の破壊」とも受け取ることができる。つまり人間による「環境破壊的行為」によってトキが生息してこられた一面がある。

 しかし、1970年代初期から農業の効率化が進み不便な山間部の棚田は放棄された。トキの餌場であった棚田の消失が、トキ絶滅の要因の1つになる。また米の減反政策によって二毛作が一毛作になる。水田の水抜きによって土壌が殺菌され、その結果、微生物が減る。これは野生生物にとっては農薬よりも脅威だと新潟大学の本間孝介先生は指摘する。また戦後になって鉄砲での猟が認められ、害鳥とされていたトキは乱獲された。トキの絶滅は農薬などによる「自然環境破壊」ではなく「乱獲」によるものだと指摘する専門家は多い。

 したがって「自然環境の変化」ではなく、「社会環境の変化」によってトキは絶滅したのだろう。本間先生によれば「トキの絶滅に関して自然環境の破壊は1~2割ほどの要因でしかない」とのことである。産業革命から始まったとされる環境破壊。つまり「社会環境の変化」から「自然環境の変化」が生じているのだ。

 特にこの環境学校で学生たちに伝えたかったのは、そもそも「誰のためにトキを守るのか」そのポイントである。トキ放鳥に向けて佐渡島では無農薬、減農薬、有機農法などの環境保全型農業への移行が徐々に進められているが、農家に与える負担は計り知れない。我々はあまりにも安易に「無農薬、減農薬にすればいいじゃないか」と意見をするが、そこには農家の人々の苦悩は含まれていない。環境学校では減農薬、無農薬などで生い茂った雑草むしりなどの作業を行ったのも、少しでもその作業の過酷さを体験してほしかったからだ。世間では単純にトキ放鳥を歓迎するものの、決して国策として取り組まれているわけではない。

 現状は農家やNPO団体におんぶに抱っこ状態だ。例えば中国政府は、トキ保護地域の農家に対して、棚田作りや、また無農薬などで生じた経済的な損失を補償している。同じくトキ野生復帰を目指す韓国は国をあげて取り組もうとしているとのこと。その一方、日本の状況といえばトキ放鳥に向け環境省、国土交通省、林野庁、農水省などがバラバラに財務省に予算請求している。いわゆる縦割り行政の弊害であるが、国が一丸となって取り組んでいるわけではない。(現在は2007年に環境省がレンジャーを佐渡島に派遣し、そのレンジャー隊員の情熱によって環境省が中心的な役割を担ってきたとのこと やはり現場に人員を配置する意味は大きい)
 
 また里山文化の復活が理想的であるが、現実的には里山で生活してきた以前の文化、社会の仕組みを完全に取り戻せるものでもない。したがって里山での棚田開拓はあくまでもトキの野生復帰のために用意され、維持されなければならない。一部の農家やNPO団体に頼るだけでは、この取り組みは継続せず頓挫するだろう。日本社会が本当にトキの野生復帰を目指すのならば、地元だけに負担を押し付けるのではなく、日本社会全体が加わった長期的なシステム、またそれにかかる財源を確保しなければならない。

 また私たち消費者が、減農薬、有機肥料で作られた佐渡島のお米やお野菜などに付加価値をつけ、いくらか高価であっても積極的に購入できるのかどうか。「安ければいい」では環境保全型農業は成り立たない。個人的には、あの中国による冷凍餃子事件などを1つの教訓にしなければならないと切に感じる。体内に入れるものが「安ければいい」で良いはずもない。これは農薬とは別件かもしれないが、そもそも食糧自給率が4割足らずでは有事の際の国防問題にも影響する。食糧の海外依存率が過ぎれば日本にとって弱点となる。
 
 そして、トキが生息できる環境が人間にとっても魅力的な環境でなければならない。大切なことは「トキのための活動」なのか、それとも「結果的に人間のためのトキ保護活動」なのかを、棚田作りを通して,また地元の人々との交流から、学生たちに感じてほしかった。トキ放鳥を1つのきっかけに、どのような社会を築いていくのかが問われている。環境問題は「自然が相手」ではなく「人間社会が相手」なのだから。

 とっ、偉そうに長々と意見させて頂きましたが、私自身棚田作りに関わったのはたかだか4年間。ただ驚いたのが昨年に復活させた棚田が今年、訪れてみたらドジョウからメダカ、カエル、ゲンゴロウ等がウヨウヨいたことだ。土壌を耕し水を入れただけで(地元の農家の方が肥料も入れた)これだけの生命が戻ってきた事に素人ながら感動していた。また泥にまみれる事がなんとも楽しい。そして恒例となったのが、棚田の中での相撲取り。

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今年はコスモ石油の鴇田さんと四番とり残念ながら1勝3敗。相撲は先に手を付けたほうが負けるので落ちる時は顔から落ちるもの。おかげで鼻の中も耳の中も泥まみれになる。2年前は鼻からバイ菌が入り急性蓄膿症にやられ、翌日から高熱と鼻から流れる膿に苦しめられ、佐渡の病院で治療を受けるはめとなった。それでも泥んこの中での相撲は楽しく、リスクを背負ってでも止められない。また棚田作りに必要なのが足で踏み固めること。つまり一石二鳥なのだ。

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相撲後にコスモ石油・鴇田さんと ちなみに左が私です


 9月25日、トキは放鳥される。果たして放鳥されたトキが生き残れるのかは、これからの取り組みにかかってくる。放鳥してから「もう知らん」ではあまりにも無責任だ。この棚田作りにこれからも積極的に関わっていきたい。

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