東京都は東京オリンピック構想の目玉に環境問題への取り組みを挙げている。例えば1964年の東京オリンピック時に建てられた国立代々木競技場や国立競技場などのヘリテージ・ゾーンと呼ばれている施設を補強、増築すれば全体の7割が既存の施設で行える。石原都知事は「今までにないシンプルでコンパクトなオリンピックを目指す」としている。
そして「緑の基金」を立ち上げ街路樹46万本を100万本へ。小中学校の校庭を芝生化へ。そして部分的でありますが電線の地中化。そして私もオリンピック招致大使として関わっているのがゴミの島を森に変えるプロジェクト。建築家の安藤忠雄さん、宇宙飛行士に毛利衛さんも中心となって「緑の基金」への賛同を呼びかけている。
9月20日、東京湾の入口にあるゴミの島(東京23区内で14年間で発生したゴミ1230万トンで埋め立てられた中央防波堤内側埋立地)に木を植え緑の森に変えようと植樹が行われた。面積は皇居や明治神宮とほぼ同じで、これだけのスペースが森になれば海から東京に流れてくる大気がまずこの森を通り抜けることになり、新鮮な空気が都内23区へ流れることになる。またゴミの島が森になれば世界初となる。以前、明治神宮の森を案内して頂き歩いたが、あの森は大正時代の人々がどうすれば自然林に近い森を作ることができるのか、100年たったら完成する森作りを緻密な計算の上にスタートさせた。そのおかげで明治神宮の森は野鳥の森とも呼ばれ多くの生き物が生息している。その明治神宮の森を歩きながら、こういった生き物が生きられる森がゴミの島にできたらどんなに凄いことなのかと想像しただけでもワクワクしていた。
来月にはオリンピック開催地が決定しますが、それはあくまでも人様が決めることであり、また政治的な駆け引きもあるでしょう。したがって私個人的には正直どうなるのかさほど興味がない。そんな事よりもオリンピックを目指すのならばその過程に興味がある。例えば世界遺産ありきで世界遺産を目指し選ばれた場所がありますが、果たして世界遺産になったことが幸せな事であったのかどうか。世界遺産になれば注目され観光客が増え経済的なメリットがあることばかりに期待し、受け入れ体制など、どのようにしてそこの自然を守っていくのかといった本来の取り組みを怠った場所は結果的に世界遺産になったことで多くの登山客や観光客によって踏み荒らされ無残な姿になってしまった。なんの為の世界遺産なのか、その目的を見失ってはならない。
これはオリンピックとて同じ事。したがって私はオリンピックに選ばれるかという事よりも何故に東京都はオリンピック招致を目指すのか、そのメッセージとは、そこに興味があります。
先にも述べたように大都市東京で取り組める環境活動は多い。コンクリートジャングルといったイメージを持つ東京だが、その東京が緑に溢れれば他国の大都市もその影響を受けよう。特に中国に広まっていけば結果的に中国の大気汚染から自国を守ることに繋がるかもしれない。前回のオリンピックは怖いほど人工的であったのに対し、東京オリンピックは気張ることなく自然体で臨むべき。
明治神宮の森から学ぶべきことは、「人は自然環境を壊すこともできるが、同時に作ることもできる」ということ。先人は鎮守の森を作ってきたではないか。我々にはそのDNAが流れている。ゼロから始めるのはハードルが高いかもしれないが、あったものをもう一度取り戻す事はやる気さえあれば可能なはず。大都市の在り方を世界に訴えるためにまずは東京都が目に見える形で徹底的に環境対策を行う。その姿を世界に伝えていく。その目標さえぶれなければ私はオリンピック招致大使としてその役割を精一杯果たしたいし、逆にオリンピックありきで掲げた目標がパフォーマンスでしかなければ私は辞退する。
私が尊敬している安藤忠雄さんが東京都のグランドデザインを担当していらっしゃるので安心しています。
仮にオリンピック開催地に選ばれなくとも、この東京都の掲げた目標を着実に実現していかなければせっかくの夢のプロジェクトがもったいない。オリンピックが新たな環境型都市計画への1つのきっかけとなれば私はそれでいいと思うし、最も大切な事はどのような社会を皆で築いていくかの、その過程にあると思います。
2009年9月25日 野口健