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2013年ヒマラヤ遠征

ヤルンリー、懐かしの1ページ

2013年ヒマラヤ遠征

2013/04/25

ヤルンリー、懐かしの1ページ

 午前3時30分、ヤルンリーBCを出発。満点の星空そして無風。天候は完璧だ。気になるのはただ一点。上部での雪のコンディション。ナー村から二泊三日でヤルンリーに登頂する予定だったのにアタックをかけるのにざっと10日間。なにしろ8日間連続して雪が降り続けていたのだからどうしようもない。昨日は久しぶりに晴れたが雪崩を気にしてアタックせず。ただこれだけ降り積もった雪が一日の晴天で無くなるはずもなく。BCの周辺からはひっきりなしに雪崩の音が響き渡る。そして、雪崩といえばマナスルの時を思い出す。あの雪崩の峰。2回あの山に挑戦しましたが、ここはまるで「バグダット」なのかと錯覚してしまうほどに夜な夜な爆音により目が覚める。そう、雪崩の爆音だ。今まであの山で一体どれだけの登山家が雪崩に飲み込まれていったことだろうか。昨年の秋も雪崩によって大量遭難。一瞬にして10人以上の登山家が死んだ。どんなにベテラン登山家だろうが、素人登山家だろうが、雪崩に巻き込まれたら同じこと。
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 ヤルンリーは技術的には決して難しくない山。しかし、そんなことは雪崩の前にはなんら意味を持たないこと。巻き込まれたらシデェウ(ネパール後で終わり)と思ったほうがいい。
 
 アタックを開始しヘッドランプの光を頼りにザクザクと歩きながら「もう1日待ったほうがよかったかな?」などと考えもしたが、しかし、明日ならば「確実に安全」という保障などある訳もなく。警戒心を抱かないのも問題だが、警戒心を抱きすぎるのも問題。いつでも判断は難しいもの。そして僕は意外とビビリ屋なのかもしれない。でも、この世界で生き延びるにはビビリ屋根性も必要なのかなとも思う。

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陽が昇るまでは雪面もガチガチに凍っているものの、日が昇ると急激に暑くなる。そして足がズボズボと雪に潜る。右足が足の付け根まで潜り、必死になって左足で全体重を持ち上げるようにして這い出すと、今度はその左足がズボリとハマる。その繰り返しに泣きたくなる。

ある時には両足が同時にズドンと雪の中に落ち頭一つが雪から出ていた。「おおお」と声を上げ後ろから来たシェルパに引き上げてもらったが、そこは大きな岩の上で雪に覆われて分からなかったのだが、つまり僕は大きな岩の上から地面がない所を歩きズドンと落ちたのだった。

ベースキャンプから山頂までの距離は直線距離で約4キロ(あくまでも直線距離)。僕が22歳の時にヤルンリーに登った時は確かベースキャンプから3時間ほどで登頂したような記憶があるが、今回はその倍はかかるだろうと覚悟をした。

途中、山頂から繋がる斜面の真下をトラバース(横切る)するポイントがあるが、ここで雪崩に襲われたら逃げ場もない。ビクビクしながら通過した。そこから山頂までは稜線をつめて登っていくのだが、比較的に雪が付きにくい稜線でありながらも場所によっては腰近くまで潜る。それはまるで雪の中を泳ぐかのように。それでありながらサーダー(シェルパ頭)のダワタシ・シェルパが「ステップを丁寧に。あまり雪を揺らすと雪崩がアブナイヨナ。今日は雪のコンディションはよくない」を繰り返す。確かにその通りと。ヒヤヒヤしながらも、でもそれ以上に稜線からの景色が素晴らしすぎる。僕にとって8000M級峰初体験となったチョーオユーもその次に登ったシシャパンマも、そして神の峰であるガウリシャンカールも。

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そして面白かったのは山頂から眺めているとロールワリング地方は雲海が広がっていて4000M以下は雲に覆われていた。その隣のクンブ地方(エベレストがある地域)は雲ひとつない。ロールワリング地方からクンブ地方を繋げるテラプシタ峠があるが、雲はロールワリング地方側の峠の手前で止まっていた。約6000Mある峠を越えられずに雲の行き止まりとなり溜まっているのだ。ベースキャンプの辺りを探すとすっぽりと雲の中であった。8日間、雪が降り続いたのも納得。地形による様々な影響とは面白いものだ。

雪崩の心配さえなければ、なんて気持ちがいい登山なのだろうと考えながら慎重に一歩一歩雪面に可能な限りショックを与えないように登る。

登山開始から約6時間で登頂! 僕は素直に感動していた。このヤルンリーは96年に僕が始めて8000M級の山に挑戦する直前に登った山。あの時、ヤルンリーの頂で「果たして僕は8000Mの山に登れるのだろうか」と不安と期待が入り混じっているような、そして間違いなく「これからドデカイ勝負をするのだ」と興奮していた。

92年に初ヒマラヤ。それから5年間、4000M級、5000M級、6000M級の山々を毎年登り続け、そして96年に初めての8000M級への挑戦となった。僕には8000M峰に挑戦するまでのコツコツの1つ1つがとても懐かしい思い出と同時に「あれはとっても大切な事だったんだなぁ〜」と改めて感じる。最近では一気にジャイアンツ(8000M級の山)に挑戦する傾向もあるようですが、人ぞれぞれの挑戦だからそれはそれとして、しかし、自分にとってはあの「コツコツの積み重ね」はエベレストに繋がっていくストーリのようなものだった。

自分の中で描いているストーリー。自己満足と言われればそれまでだが、山登りはそもそも自己満足の世界。そして自己表現の世界。エベレストに向かっていくそのストーリーがあったからこそ、エベレストに登頂した後も僕は色々な形でエベレストと関わり続けているような気がする。いきなり挑戦してしまうのはなんとももったいない様な。

ヤルンリーは僕が大切にしてきたストーリーの1ページ。山頂では22歳のあの頃の気持ちをたっぷりと思い出させてくれた。とても素敵な瞬間。もっと山頂に居たかったけれど山登りは登って終わりじゃない。登ったら降りなければならないわけで、下山するまでが登山。

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午後が近づくにつれ温度が上がる。つまり雪が緩みやすくなる。山頂からの下山中も後ろからダワタシ・シェルパの「雪の斜面を降りるときは気をつけて。雪崩は怖いよ」と。「いちいち言われなくても分かっているよ!」とも言いたかったけれど、ダワタシ・シェルパは何人もの身内や仲間を雪崩で失っているだけに雪崩には人一倍恐怖心を抱いていた。2年前にエベレストで雪崩に直撃した時もダワタシ・シェルパは僕と一緒だった。

山頂から続く尾根を降りきり、氷河をトラバースし、氷河の取り付きまできた。ここまでくれば雪崩のリスクは極めて少ないとホッと一息。座って休憩していたらあっという間に山頂付近が霧に覆われ見えなくなっていた。「天候の移り変わりも早いものだなぁ〜」と思っていたら、その霧で見えなくなったその辺りから「ドドドー」と爆音が響き渡った。さすがにここまでは来ないだろうと思っていたが、しかし、ついさっきまでその音のする辺に僕らは居たのだ。ダワタシ・シェルパと目が合ってはお互いに表情を引きつらせながら笑うしかなかった。ひょっとしたら僕らが雪面を切っていたのかもしれない。やれやれ。
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それにしても今回の登山にはシェルパが4人も同行。何故ならばロールワリング地方はダワタシ・シェルパの故郷。その故郷に訪れてみたらダワタシ・シェルパの親戚たちが「俺たちも一緒に登るぞ!雪が多いから人手があったほうがいい」と一緒に来てくれたのだ。お陰でとても賑やかな登山隊となった。明日はベースキャンプを後にし、ツォ・ロルパ氷河湖へ。その説明はまた今度します。ではお休みなさい。

2013年4月24日 ヤルンリーBCにて 野口健

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