7月11日、産経新聞 直球&曲球「富士山は浮かれている場合ではない」が掲載されました。
富士山が世界文化遺産に登録され、日本中がお祝いムード一色に染まった。今月1日、山開きと同時に多くのテレビカメラが富士山山頂から、ご来光などの景色を放送しスタジオではコメンテーターたちが「美しい!」と連発していた。
日本人は世界に評価されることが何よりも好きなのだと改めて痛感。明るいニュースに飢えている日本社会だ。富士山世界遺産登録に喜ぶ人々の気持ちも分からなくもない。しかし、無邪気に喜ぶだけではダメ。なぜか。このたびの世界遺産登録はあくまでも「条件付き」だということを忘れてはいけない。
通常、世界遺産に登録されてから6年後にユネスコによるその後の管理状態や実情などのチェックが入る。しかし、富士山に関しては異例の「半分」、つまり3年後とされた。同時に多くの宿題を与えられている。
例えば増加する入山者をどのようにコントロールし富士山を守っていくのか。富士山の保全状況報告書を3年後までに提出すること。また山中湖などに目立つモーターボート(動力船)が平穏な環境を阻害しているとも指摘された。ユネスコからすると文化的景観の観点から、また霊峰である富士山山麓の湖にモーターボートのエンジン音は似合わないと映ったのだろう。
本来ならば世界遺産に登録される前に入山規制や入山料制度などの受け入れ体制を明確に作るべきであった。また文化遺産ならば「景観」という概念も含まれてくるだろう。この夏は登山者による渋滞、ごみ問題、トイレの不足、そして登山者の安全面などさまざまなトラブルが発生するだろう。静岡、山梨両県の関係者はその状況を現場で目に焼きつけてほしい。そして来年の山開きまでにその一つ一つの課題に適応する制度を待ったなしで作るべきだ。
富士山の世界遺産登録で浮かれている場合ではない。われわれはユネスコに試されていると受け取った方がいい。仮に何ら対策を取らないまま3年が経過すれば次のビッグニュースは富士山の「世界危機遺産入り」または「世界遺産取り消し」となるだろう。
(7月11日 産経新聞)
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