エコツーリズム , ダイビング , 佐渡島

2004/05/04

しずかに素敵な佐渡島


 
 先日、佐渡島を訪れた。観光客の激減で、経済的に大きなダメージを受けている佐渡島。なんとか観光客を呼び戻そうと「佐渡百選」というイベントを計画。私もその一部に参加する事となり、下見に行ってきた。僕の中での佐渡島のイメージは「島流し」。
 なんとなく日本海の暗さと島流しが結びつき実に暗いイメージがあったが、やっぱりイメージはイメージでしかなかった。とっても穏やかでノンビリした素敵な島だった。山に登れば花だらけ。湿地帯には水芭蕉。水温9度の寒い海にウエットスーツを着込み、潜ってみた。残念ながら潮の流れの影響で透明度は今ひとつであったが、珊瑚と色とりどりの海草が海の森を演出していた。ヤリイカの卵がツララのように海底の岩場からぶら下がっていた。

 そしてもっとも印象的だったのが宿根木(しゅくねぎ)という伝統的建造物郡保護地区。その一角に立ち並ぶ板壁の家は100~200年前に建てられたものが多く、石畳の路地に井戸、また集落は花一色というほど花に囲まれているとても美しい空間。ゴミ一つ落ちていない清潔な集落。景観を重んじていたかつての美しい日本の姿に大感動。日本人の美意識はいつから変わってしまったのだろうか。その集落から離れたくなく、しばしボーっと過ごした。

 そして素晴らしい出会いもあった。そろそろ帰ろうとしたそのとき、ある方に声をかけられた。「なにしにきたんだ」とあまりにもシンプルな質問に「佐渡百選の下見です」と答えたら「そうか、それならば家に上がっていけ!」と仰られる。
 「なんだかおっかないな~」と思いながらもその威勢のいいおじさんについていった。
 「島の若者がみんな逃げていく。爺と婆しか残ってない。仕事がないっていうけど、そんなことない。頭使えよ。自分たちの故郷を盛り上げなきゃダメだよ!」とすごい剣幕に我々は圧倒され一言も口を出せなかった。その風貌と迫力から只者じゃないことは瞬時に伝わってきた。

 芸術家の泉椿魚(いずみちんぎょ)先生であった。博多から日本海沿いに北上の旅を続けながら、訪れた先々の地元の人々と共に町おこし、村おこしを行っているのだ。今現在、この宿根木に滞在しながら書画や戯句の創作に励みながら、集落の復旧活動や若者を呼び戻そうと講演活動などを行っている。
 「日本の文化を残さなきゃ! このまま地方が廃れていってどうするんだ。若者よ、村に帰って来いよ」「飯は食っていける。文化を守って観光客呼んで来いよ。いくらでもアイディアなんかでてくるだろう」「都会なんかにいってなにやってるんだ」と一喝された。しばらくしゃべるだけしゃべってから「あれ、あんたどこの出身だ!」と聞かれ「東京です」と答えたら「そうか、そりゃしょうがないな。ハハハ」と仰られた。しかし泉先生の仰りたいことはよ~く分かる。

 日本には素敵な田舎がたくさんある。しかし、どこでも同じようなスタイルで観光地化されその個性が失われつつある。その結果、観光客からも見放され廃墟と化しつつある温泉街(全てではないが)など哀れなものだ。
 僕が力を入れているエコツーリズムはまさしく地元が自分たちの財産である自然を「自然保護」と「観光復興」とういバランスで新たな産業に繋げていくべきものだと感じている。地元の若者がエコツアーの専門ガイドやレンジャーとなり、徹底したシステムによって保護された美しい自然と文化が人々を魅了し、さらにお客さんの足が向いてくる。そうなれば民宿も旅館も賑わう。
今、取り組んでいる小笠原諸島とまったく同じことだ。そのためにも地元の若い人が集まり、爺さん、婆さんから知恵をもらい、自分たちで故郷を盛り上げなきゃいけない。泉先生の熱い情熱に圧倒されっぱなしであったが、久々に本物と出会い大きな刺激となった。

 

 泉椿魚先生のおっしゃる地域の活性化こそ今、僕が目指していることだ。地方の国に対する依存体質は相当なもの。自分たちの自然や文化に目を向けずに公共事業のための公共事業を繰り返している。佐渡島も美しい海岸線がテトラポットによって台無しだ。
 しかも、ほとんど人の住んでいない海岸までテトラポット。島の人は「いらないダムを造り続けている。本当はもう必要ない。でもね、公共事業だから。それしか収入源ないし。高校生が卒業して島に残るのは数パーセントだけ。仕事がないんだ」と僕に話していた。  
これからはハードじゃなく、ソフトに金とエネルギーを注ぐべき。公共事業も環境型公共事業に切り替える時期。あの汚く露出している電線を地中に埋めるのも、人材育成だって公共事業の一環で行えばいいのだ。あの「ふじみ湖」を繰りかえしちゃいけない。
 先日、茨城県のある自民党の県議から「ふじみ湖」について「報じるな!」などといった連絡が私のイベントを行った某新聞社に連絡が入ったそうだが、目先の公共事業の利権ばかりに寄生しなくても成り立っていく社会を目指さなければならないはず。

 別れ際に泉先生に「野口さん、わしゃ、あんたのことよく知ってるよ。アルピニスト! あなたのやってきたこと、ずっと見てきたよ。ありがとう。会えてよかった。若い人に諦めてほしくないんだ。それだけだ。日本はいいとこだろ。一緒に日本を元の姿に戻そう」と声をかけられ「俺も頑張るぞ!」と全身が熱くなるのがわかった。
 さりげなく素敵な佐渡島。素朴なよき時代の日本の田舎。山に海にそして人々の文化。
僕はまた一つ大好きな日本と出逢ったことに感謝した。

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