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2007年エベレスト清掃登山 , ヒマラヤ , レポート・インタビュー記事 , 自己責任と危機管理

隊員レポートⅧ/2007年チョモランマにて私が見たもの

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2007/05/21

隊員レポートⅧ/2007年チョモランマにて私が見たもの

初めてのチョモランマ(エベレスト・チベット側)そして、きっと二度と来ないはず
BCとABCに初めて辿り着いた時、私は健さんに言った

「こんなに人が多いところ、私無理です。これが最後のエベレストにしましょう、健さん」

さすが世界で最もソラに近い山
ありとあらゆる種類の人間が一時一所に集まってきているのだった
大小30隊ほどの登山隊がいたが
驚いたのは、その中には私が想像した以上に多くの
各種公募隊が存在したこと

日本隊は我々野口隊を含めて5隊(N,O,P,Q,S)
そのうち3隊が公募隊(P,Q,S)
そのほかに国際公募隊(パーミッション共有隊)Aに参加している日本人2人
別の国際公募隊Rに参加している日本人5人
更に国際公募隊(パーミッション共有隊)Tに参加している日本人1人と出会った
つまり、ほとんどが公募隊ではないか

登山活動が終わってみて、日記を書いていて気付いた事がある
シェルパも含めた登山隊員が無傷で全員登頂したのは
自己流隊(つまり公募隊でない)の野口隊とO隊だけだった
P隊は4人中登頂はサブガイド1人
Q隊は4人中登頂2人、1人死亡
S隊は3人中登頂1人
A隊の1人はC2にて死亡、よって1人は撤退
T隊の1人は早期下山
R隊は現在アタック中(既に1人は病気で下山)

公募隊に参加してるのは日本人ばかりではない
どちらかというと、国際公募隊に参加している欧米諸国(南米やフィリピンも)が多い
必ずしも心が通じ合ったパートナーと登ることのできない
世界で最もソラに近い山
そこでは何が起きたって、おかしくは無いのかも知れない

公募隊に限ったことではないが
私が8848mの高みに行って帰ってくる間のほんの4日間のあいだに
三途の川の淵に立ったクライマー達にどれほど触れただろう

C1で進退を考えている韓国隊員のシェルパ2人に呼ばれた
「命について考えるのは隊員だけじゃなくてシェルパも同じで、僕らにも家族がいるってことを彼に伝えてくれ」と
C1→C2へ向かう途中で無線が入った
健さんが登頂後にQ隊の隊員死亡に遭遇、レスキュー&埋葬に尽力していた
健さんの性格からして、中途半端にそれを放棄するとは到底思えなかったが
「自分の酸素はあるの?!8500m以上の高みにそんなに長くいないで!分かってるよね」
更に健さんと共にいるはずのサーダーに
「健さんの酸素はちゃんとあるの?あなたを信じているからね!」
それしか無線を通じては言えなかった
C2→C3へ向かう途中で、ソロ(個人)のMさんテントの存在が気になる
「Mさ~ん!」
と声をかけるが返事なし
結局彼は、このテントの中で亡くなっていた

8000mより上の世界、生と死の分岐点を行ったり来たりしている人たちとの遭遇
頂上直下で遅々として進まない韓国人、本人もシェルパも酸素が切れかかっていたのだ
我が隊のシェルパが有無を言わせず、余分にあった我々の酸素と取り替える
同じように、亡霊のようにフラフラと歩んでいたフィリピン人、
お茶とアミノバイタルを飲ませるが、逆に吐いてしまった
完全に高度にやられて、内蔵機能が低下していた
飲むことも食べることもできないのならば、エネルギーなんか生まれてこないのだ

夜が明けて世界が明るくなると、見えていなかったものが見えてくる
左に前々日亡くなった日本人、右に昨年(?)亡くなったインド人の遺体を見ながら雪壁を下っていく
第二ステップの下にも一昨年からの日本人の遺体
切れ落ちたスノーリッジをゆくと、前方に座り込んだ遺体か・・・
と思ったら立ち上がった
立ったり座ったりしている、気の触れたイタリア人だった
ザックの中に半分以上入った酸素ボンベが入っているのに、酸素は無いとか何とか言っている
無理やりマスクを装着させて、酸素ボンベのレギュレーターを4l(max)出す
ハーネスに結ばれているセイフティー用のスリング(紐)にカラビナがひとつもついていない
いったいどこで失くしてきたのだ!カラビナをつけてあげて、セイフティーをつないで下らせる
まるで歩けない、下るんじゃなくって、転がり滑り下りていく
セイフティーが無かったら、今頃あちらの世界にひと飛びだ

更に下ると、シェルパのミンマが雪上にしゃがみ込んでいた
「僕らにも家族がいるんだ・・・」
と言っていたシェルパだ
ちょっと疲れたから、と言うミンマだけれど心配になって
彼の酸素ボンベのレギュレーターを1.5l→2lに増やす
「さあ、下ろう」

C3に帰り着くと、酸素を吸ったままシェルパ達が寝転がっている
酸素を吸っているから死ぬことは無いだろうけど、この高さで昼寝は禁物なんじゃないのー
と言いつつ、私も寝転がる
つまり疲れているのだ、眠いのだ
それでもこの高さに長居は無用、C3を撤収して更に下る
また、出会ってしまった、生きることを放棄しつつある人
今にも足がもつれそうなオーストリア人女性だ
しかもセイフティーのカラビナをロープに掛けていない
脳みそがとろけていそうな微笑で、私に
「あなた先に行きなさいよ」
と言ってくる
「あなた死にたくなかったらカラビナちゃんとロープに掛けなさい!カラビナ掛けるまで、私行かないよ」
しつこく押し問答をして、結局一緒にC2まで下りる

C2まで行くと、知り合いの韓国隊が酸素ボンベを3本売ってくれと言ってくる
なに?我々のC2にデポしてあった酸素は7本も盗まれちまって、もう無いよ!
でも、C1にデポしてある酸素ボンベを3本譲る約束をする
健さんと無線で話して値段を決める
あー、疲れたな
そういえば頂上直下で韓国隊員とそのシェルパに与えた2本の酸素、あれもお金もらえるのかな
こちらの判断で勝手に変えたものだから、仕方ないかな
人道的なことなので、健さん、かってにやっちゃったけど許してくれるよね

登山になかなか集中できない、不思議な山のおはなしでした

 

2007年5月21日  谷口けい

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