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2008年冬ヒマラヤ , アジア・太平洋水サミット , ネパール , ヒマラヤ , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

ロルパ氷河湖視察を終え、そしてマオイストとの遭遇

2008年冬ヒマラヤ , アジア・太平洋水サミット , ネパール , ヒマラヤ , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

2008/01/17

ロルパ氷河湖視察を終え、そしてマオイストとの遭遇

1月16日、ナワンチクリン・シェルパとダワタシ・シェルパの案内で標高4580㍍にあるロルパ氷河の視察を行った。UNEP(国連環境計画)また ICIMOD(国際総合山岳開発センター)の報告によると5年から10年の間にネパールにある2,323の氷河湖のうち20以上の氷河湖が決壊の恐れがあ ると警告していますが、その中でも特に決壊の危険性があるのが世界最大級のロルパ氷河湖だとのこと。(WWFの報告はさらに深刻でこのままの加速で氷河が 融解し続ければ2035年にはヒマラヤ山脈の氷河の全てが無くなる恐れがあると警告)。

地図でロルパ氷河湖の位置、拡大部

1996年に一度訪れた事があるロルパ氷河。8月の雨季、真只中とあって湖水は湖面にたっぷり。今にも溢れ出しそう で地元のシェルパ達と「これは危ないよ」と話していた記憶がある。ただし、あの頃は気候変動によって氷河が融解し氷河湖が急激に拡大している事実など考え てもみなかった。

ちょうどその頃、北海道大学の元助教授、山田知充先生がヒマラヤの氷河湖(主にイムジャ氷河湖、ロルパ氷河湖)を調査し、氷河湖の拡大や決壊の要因、可能 性などを調べ気候変動によるヒマラヤ氷河の融解、氷河湖の決壊の事実をいち早く世界に示していました。後に在ネパール日本国特命全権大使の伊藤忠一さん (当時)から「私がネパールで大使をやっている時に山田先生から氷河の融解について初めて報告がありました。外務省としてもJICAなどに氷河湖の調査を 依頼しましたが、ネパール政府からの要請がなく、調査以上の事は出来なかった。これからは調査から、具体的な対応策に移る時期ではないでしょうか」とお話 頂きました。ロルパ氷河湖に向かって一歩一歩と歩きながら当時のそんな出来事を1つ1つ思い出していた。あれから12年、当時はまさかこういう形でロルパ 氷河湖やイムジャ氷河湖と関わるなどと考えもしていなかった。分からないものです。

世界最大級の氷河湖「ロルパ」を眺める

水門と右端に駐在員用の山小屋

ロルパ氷河湖を写真に収める

ロルパ氷河湖にて

そのロルパ氷河湖との再会を果たしましたが、世界銀行の支援で2000年に水門が設置され、また夏の時期には水門の 管理、水位の調査など3名のスタッフが常駐するステーションが建てられていた。その水門によって水位が3㍍下がったとのこと。そのおかげか12年前には溢 れそうだった氷河湖がいまではだいぶ落ち着いている様子に見えた。しかし、ナワンチクリンさんは「今は冬ですから、夏になるとまた水位が上がるのです。水 門1つでは間に合わなくなる。また、氷河が崩れてその氷の塊が氷河湖に落ちてきたら、その勢いで一気にロルパ氷河湖は決壊するでしょう」と懸念していた。

ロルパ氷河湖

また98年にロルパ氷河湖から流れ出るロールワリング川には19カ所に決壊時に村人に知らせる警報機が取り付けられたが、村人の話ではマオイスト(ネパー ル共産党毛沢東主義派・いわゆる共産ゲリラ)が警報器に取り付けられているソーラーパネルの略奪を行っていて起動しないとか。

98年に世界銀行が設置した決壊を知らせる警報機

ロルパ氷河湖の現場でナワンチクリンさんに懸念材料の1つ1つを説明されたが、それでも私の受けた印象では水門によって水位がだいぶコントロールされていた。同じような水門をイムジャ氷河湖に設置できないものだろうか。

ナワンチクリンさんに水門の説明を受ける

立派な水門に関心と驚き

福田総理は1月10日に地球温暖化対策に取り組む開発途上国に協力するため、5年間で総額100億ドル(約1兆 1000億円)規模の支援枠組みを創設する方針を固めた。温暖化防止に臨む日本の意思を世界に示す狙いで、福田総理が通常国会の施政方針演説やスイスの世 界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での演説で表明する見通しとのこと。日本との政策協議に合意した途上国に対し、円借款や無償資金協力などの政府開 発援助(ODA)を供与する方針です。その枠組みの中に気候変動によるヒマラヤ氷河の融解による氷河湖決壊対策を含めることができないだろうか。

ロルパ氷河湖を眺めながらそんな事を考えていた。その為にはまず必要不可欠なのは伊藤大使がおっしゃっ ていたようにネパール政府サイドの氷河湖問題に対する真剣な姿勢である。例えば海面上昇に苦しむツバルは、2000年9月5日に国連に加盟し、これを機に ツバルは元首自身が国をあげて、海面上昇による自国の危機を世界中にアピールするようになる。具体的には国連総会やドナー国(資金を出してくれそうな 国々)に直接訴えると共に、各国の担当大臣やメジャーな人物を招聘し、アピール大作戦を展開。昨年12月の第1回アジア・太平洋水サミットでも福田総理に 直接訴え、その結果、今年一月に鴨下環境大臣がツバルの視察に出かけている。昨年は石原都知事、一昨年は小池環境大臣(当時)もツバルに出かけている。そ のおかげで日本のマスコミでもツバルの海面上昇に関しては、日々大きく取り上げられ、多くの日本国民もツバルの存在、また海面上昇の被害を認識するように なった。

また2002年には高潮被害などが頻発したことに対して、ツバル政府は、地球温暖化による海面上昇で国土が水没の危機にあるとして、温暖化対策に消極的な 米国、豪州を相手に、国連の司法機関・国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に訴訟を起こすなど、消極的な国々に対しても積極的に法の効力を最大限活用し世 界に訴え続けている。話題を欠かさないのが最大の武器だ。

それに比べネパール、またブータン含め氷河湖問題を国の最優先課題にしていないところが、最大のネッ ク。昨年、5月下旬にコイララ・ネパール首相に面会した際に「日本政府に氷河湖対策を要請してください」とお願いし、8月になってようやくネパール政府か ら日本政府に正式に要請があった程度だ。マオイストとの内戦に明け暮れ、長年に渡り、総選挙すら行われていないネパール。ネパールでの話題は氷河湖問題よ りも、いつ総選挙が行われるのかといった内政問題に終始。ブータンとて民主化の話ばかり。水サミット以外のあらゆる場でツバルのように世界に訴えて頂きた い。

ロルパ氷河湖の視察を終え、シミガオン村に向って下っている最中にマオイストの集団(5人)と出くわし た。我々一行の元に集まってきたマオイスト。腰には短刀を下げており、一瞬緊張したが、こちらには武器もなく手にしているのはストック。どう頑張っても勝 ち目はないので無駄な抵抗をするつもりもなく、逆に取材させてほしいと依頼したら意外にも了解してくれた。

マオイストのソンゴンさんへのインタビュー

マオイストのソンゴンさん

リーダ格のソンゴンさん(26才)は「我々はロルパ氷河湖に向かう。氷河湖が決壊すればこのロールワリング地方は壊滅的な打撃を受ける。日本人がロルパ氷 河湖を熱心に調査しているのは知っている。ネパールの為に行っており感謝している。あなたもロルパ氷河湖に訪れたのですね。ありがとう。マオイスト党は国 際社会からテロ集団だと指摘されているがそうではない。国際社会がロルパ氷河湖対策でネパール政府に資金援助をしているが、75%は彼らのポケットに入っ ている。ネパール政府を信用してはいけない。我々、マオイスト党が国際社会と連携して解決したい」とマオイスト集団の口からロルパ氷河湖について語られた のには心底驚いた。マオイストがロルパ氷河湖について語ったインタビューを取ったのはおそらく我々が初めてだろう。

それにしても寝袋もダウンジャケットも持たずに我々に「気をつけて帰ってください」と声をかけてくれたが、彼らこそ大丈夫だったのか心配になった。なにし ろ彼らと別れた翌日から天候が崩れ、山の上部では数か月ぶりの大雪に見舞われたからだ。この日、我々はシミガオン村まで下り、ドッと疲れたのか、私、そし て平賀カメラマンはひどく風邪をこじらせてしまった。しかし、意外にもシミガオン村では癒されることとなった。

 

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