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マタギの工藤さんから学んだこと

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2008/02/03

マタギの工藤さんから学んだこと

 1月27日、青森県弘前市にてマタギの工藤光治さん(65才)と「NHK地球大好き環境キャンペーン マタギに学ぶ 森の文化 ~野口健・工藤光治対談~」にてトークショーが行われた。工藤さんとは2000年8月に地元民放局の番組撮影で初めてお会いし、それから毎年交流を続けています。特に野口健環境学校でも工藤さんのご協力頂き、マタギである工藤さんの生き方を通して自然との共生を子ども達と考えてきました。
 
 工藤さんがマタギの道を志したのは15才の時。「父も兄もマタギで、私もその影響でマタギになった。とっさに森の中を動き回るマタギは地図やコンパスなど山には持って入らない。頭の中に白神の地図を入れなければマタギにはなれない。私の頭には白神山地の全てが入っている」と、その事は後に一緒に白神山地に納得させられた。白神山地の核心部には登山道などの人工物はほとんど見当たらない。「マタギ道」と呼ばれているのは基本的には沢である。沢を歩き、尾根を越えてまた別の沢に入り進む。そして時に崖をよじ登り次の沢へと続く。そのあまりに細かな地形に地図読みの苦手な私は一人ならば間違えなく迷子、遭難するだろう。

 もう毎年のように通い続けた白神山地であるが、知れば知るほど白神山地の厳しさを痛感する。とっ同時にあの命溢れる豊かな大自然、白神山地の奥深さを全身で感じる。世界中の山々に登ってきてみて、今私が最も好きな自然は白神山地だ。命が少ないヒマラヤから戻るとふと白神山地に訪れたくなるもの。そして癒される。そして「白神山地」と「工藤さん」の「セット」がまたたまらなく好きだ。厳しい現場で生きてきた人特有の厳しい眼光とやさしい眼差し、そして顔のしわ、手の厚さとその温かい体温、そこには一片の嘘偽りがない。それはヒマラヤに住むシェルパ達にも共通する。工藤さんは私にとって日本のシェルパなのかもしれない。

 白神山地は1993年に世界自然遺産に登録された。工藤さんの住んでいた西目屋村では世界遺産登録当時では観光客が12万人だったのが、1999年には約60万人にまで増加。秋田県の八森町(現在では八峰町)は1992年に40万人だったのが、やはり1999年には60万人に膨れ上がった。

 工藤さんは「世界遺産になるまでは、まっすぐに育たないブナに人々は価値(木材としての)がないといって、ブナにあてられた漢字は「橅」(木へんに無い)と書かれてきた。そして白神山地の到る所でブナの大伐採が行われ、代わりに木材を目的としたスギを植えたりしてきたが育たない。自然はそんなに人間が思うようにはいきません。植えるのならばスギよりブナがいい。そうすれば、白神山地は依然のような保水力のある山に戻る。しかし、あれだけブナには価値がないと言っていた人たちが世界遺産になったら「ブナ」「ブナ」と今度は突然、ブナブームになる。勝手なものですね」と世界遺産前後でのブナに対する人々の意識が急変化していった経緯をお話ししてくださった。

 1982年に青森県・秋田県は白神山地を横断する「青秋林道」の工事に着手。大量のブナが切られ熊が生息できなると工藤さんを含めた多くのマタギがこれ以上の破壊を許さないと反対活動を行い中止に追い込んだ。

 「青秋林道」の問題に解決し次に訪れた問題は世界自然遺産登録だ。世界に誇れる貴重な自然を守るはずの世界遺産登録で訪れる観光客が急増。そして青森・秋田両県などはマスツーリズムで儲けようと白神ラインを拡張し舗装し大型バスを通そうとの計画も挙がってきた。最大の観光スポット「暗門の滝」の玄関口である西目屋村は建築ラッシュとなった。それと同時に観光客のゴミが増えまた高山植物の搾取が始まる。イワナを釣りに来る密漁者も増え大量に釣っていく。その影響でイワナが減ってしまった。そして特に釣り人が捨てていくゴミが目立つ。2002年、私と工藤さんは釣り人によって捨てられていった大量のゴミを回収した。

 世界遺産登録されてからマタギの工藤さん達を取り巻く環境に変化があったのはそれだけじゃない。環境保護団体、また環境省からのいわゆるマタギ追放が始まる。環境省などは世界遺産になった白神山地には「人はいないもの」としマタギと白神山地を切り離そうとしてきた。例えば2004年に白神山地は環境省によって鳥獣保護区に指定された。また、白神山地の山奥には動物の居場所に応じて拠点にする為に建てられていたマタギ小屋も中心部から遠く離れた私有地の一か所のみしか認められなくなった。「青秋林道」などの開発と戦い白神山地を守ってきたマタギが世界遺産登録と同時に今度は環境保護の名目でマタギの文化が日本から消えようとしている。本当にそれでいいのだろうか?近年、環境保護のカードは力を持つようになった。使い方を間違えるととんでもない方向へと向かってしまう。

 そもそもマタギたちは自主規制の中で必要最低限(村で年に数頭)の熊を頂いてきた。また山菜を採る時も根っこを地中に残す。そうすればまた次に生えてくる。決して乱獲しないのがマタギの掟だ。仮に乱獲しクマなどが絶滅してしまったら、マタギにとって熊は運命共同体。マタギも生き残れなくなる。マタギは白神山地の恵みと共に共存してきたのだ。それを動物愛護団体や環境保護団体は「熊が可哀そうだ!」といったようないわゆる感情論を繰り返すがどうでしょうか。私はマタギは白神山地の植物連鎖の中に自然と溶け込んでいるわけで、白神山地とマタギを切り離すべきではないと考えています。マタギの工藤さんとの対談の様子は野口健ホームページの「野口健メッセージ」にて掲載していますので、ご覧ください。

 青森から戻り翌日の1月28日~30日まで西表島へ。環境番組のロケでした。滞在中は雨ばかりで辛かった・・・。31日は外務省主催で国際貢献をテーマに講演。洞爺湖サミットに向けての日本の役割についてお話してきました。2月1日は熊本県へ。2月2日(今日)はコスモ石油アースコンシャストアクトの講演会を熊本で行いました。そして講演後は広島へ移動。明日(2月3日)は同イベントで広島にて講演会。

 ただコスモ石油のアースコンシャストアクトはおかげさまで大盛況で特に2月16日の東京講演は定員1000名にすでに20000人の応募があったとのこと。反響があるから、頑張れる。大変ありがたいことです。多くの出会いに感謝、また感謝です。

 そして、2月4日~8日までロケでプエルトルコ(中南米)に飛びます。いや~ヒマラヤから戻ってみると大変な事になっていました。もうすでに気持は4月からのヒマラヤ。早くヒマラヤに帰りたいなぁ~。

2008年2月2日 広島にて 





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