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チベット動乱~北京五輪出場への条件~

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2008/03/22

チベット動乱~北京五輪出場への条件~

 3月14日、チベット自治区の区都ラサ中心部で僧侶やチベット一般市民による大規模な暴動が発生。連日、その暴動の様子が日本のテレビ、新聞等の報道で大きく取り扱われている。中国人の店舗や公安当局の本部に投石し車をひっくり返しているチベット人の姿をテレビの画面で眺めながら、「日ごろ温厚なチベット人がついに爆発したな」と、もし私がチベット人でその場にいたら間違いなく行動を共にしていただろう。永年に渡り中国に支配されチベットの文化が葬り去られようとしている時に命をなげうってでも中国による侵略を国際社会に訴え、そして救いを求めようとしている彼らの行為を一体誰が責められようか。まさに知覧から飛び発つ思いであったに違いない。
悲壮感



 このブログまた野口健ホームページにも、北京オリンピック開幕式の芸術顧問をいったんは引き受けていたスティーブン・スピルバーグ監督がスーダンのダルフール問題を理由に顧問就任を辞退したその経緯やまたチョモランマ(エベレストのチベット名)の乱開発、そして中国の国境警備隊による無差別的なチベット人銃殺事件など度々お知らせしてきた。

 2006年9月30日、中国、ネパール国境のナンパ・ラ峠でネパールに向けて歩いているチベット人に対して中国警備兵が発砲。。近くにいたヨーロッパ人登山家(ルーマニア人)によってその一部始終が撮影されその映像がネットによって世界中に配信された。(←クリックしたら、映像が見られます)

 パン、パンという銃声にチベット人が倒れてゆく。そして次の銃声で再びパタリと倒れるチベット人。煙草を吸いながら平然と遺体を引きずる中国国境警備隊員。映像の中で銃殺されたのはわずか17歳と23歳の青年だ。

 当初、中国当局は「銃撃事件は承知していない」とコメントしていたが、ネット上に映像が流れてしまったためか「自衛のために発砲した」と説明。今回のラサの暴動でもその直後にはチベット自治区政府は「我々は発砲していない」と語り武力鎮圧を否定したが次第に事態が明らかになっていくにつれ「デモ隊を解散させるためにやむを得ず威嚇射撃を行った」とコメント。中国当局の発表は先の大戦末期の大本営発表のようなもの。なにしろ動乱中のラサに滞在していた外国人観光客が撮影したビデオや写真を押収し、外国メディアの取材を厳しく規制している中国当局。その隠ぺい体質が全てを物語っている。

 そもそも「威嚇射撃」と表現されているが、報道によれば死者は80人以上だろうとのこと。これは「威嚇射撃」ではなく「武力鎮圧による意図的な殺害」ではないか。

 スピルバーグ監督が中国の非人道的な行為を非難していたのはこのような事が繰り返されてきたからだ。先にも触れたが日本ではスーダンのダルフール紛争は一般的には知られていないが、2004年からのダルフール紛争で中国政府はスーダンに自動小銃など56億円相当を売却し紛争は悪化した。スーダンが虐殺に使用した武器の大半は中国から輸入したもの。石油の確保を国策の中心に据えている中国と武器を必要としているスーダンの思惑が一致し、スーダンは大量に石油を中国に輸出。その石油の売却代金を中国からの武器輸入に補填するいわゆる「死のサイクル」が形成されているのだ。

 以前、訪米した時に「チベット解放」と書かれたポスターやダライラマ14世の写真を街中でよく見かけた。ヨーロッパ社会も中国によるチベット支配に対して厳しく対応してきた。しかし、日本ではどうだろうか。そもそもチベット問題を知らない若い人があまりにも多い。先日、テレビの情報番組で若いタレントの女の子が「チベット人は生活に困って店を略奪しているんですか?」と質問しているのに驚き、また多くの日本人(特に若い人)にとってのチベット問題に対する認識がその程度、または関心が低いことに気がつかされた。

 私が初めてチベットに訪れたのは1996年。ショッピングセンターやディスコがズラリと立ち並びさらにビルの建築ラッシュの様子は抱いていたチベットの区都のイメージとは全く違っていた。約二ヵ月間のヒマラヤ遠征を終えてからのラサ入りであったため、その想定外の都会ぶりにある意味満喫(例えばお風呂にサウナなどの健康ランドやレストランなど)していたのも事実。帰国し外交官であった父に「チベットが想像以上に都会だった」と報告したら、

 「お前は中国の意図も分からんのか。チベット人にある程度の物と金を与えて独立運動を抑えようとしているだけだろう。便利な生活をおくったチベット人が元の生活に戻れないようしているわけでね、何故ならば中国も以前ほど表立って人権侵害が出来なくなってきた。したがってチベット人の精神構造を崩していこうということだよ。まあ~戦後のアメリカが日本にしたような事だね

と言われなるほど、確かにあれだけ極端にチベットの区都が栄えていること自体に違和感を覚えていた。

 それから毎年のようにチベット入りしたが、その度に姿を変えていくラサの姿に同じ町だとは思えなくなってきた。チベット人街特有のくねくねと入り込んだ路地裏はすっかり整地され代わりに大通りにショッピングセンターに高級ホテル。走っている車がワーゲンやベンツ、BMWのような高級外車が増えた。ホテルやお土産屋さん、ショッピングセンターのオーナーの大半は漢民族。特に鉄道がラサまで開通し観光客数は急増し観光ビジネスとしてさらに漢民族がラサの中心街を牛耳る。私は何度も中国の警察が街中でチベット人を木の棒で殴っている姿を見てきたことか。一部の観光産業に携わるチベット人には経済効果があったかもしれないが物価の上昇に伴い大半のチベット人は生活が苦しくなり、また経済的格差が生まれている。


 ヨーロッパではドイツなどの4か国はすでに首脳がオリンピック開会式の欠席を表明。EUに関しても競技を含めてオリンピックのボイコットを求める世論の広がりに押されて協議している。

 このオリンピックに向けて一生懸命励んできた選手たちの気持ちを思えば北京オリンピックの「ボイコット」などそう簡単に口にはできない。しかし、これ以上の非人道的な行為が中国によって繰り返されるのならば、中国に対する明確なメッセージとして中国が最も恐れている「ボイコット」という最終手段がその選択肢の中に含まれるのも、またやむを得ない。

 
 
 
 オリンピックで国力を増大させた中国が第二のダルフール紛争を招くかもしれない。オリンピックによって新たな血が流されるかもしれない。血に汚れたオリンピックに出場する事が果たして幸せなことなのだろか。私にはそう思えない。何故ならばオリンピック開催が引き金となり新たな血が流れようものならばオリンピックに出場した選手、またその関係者は生涯、十字架を背負うことになるからだ。

  中国にとっては北京オリンピック開催を成功させることが最大のテーマ。そして世界が中国に対して注目する時期でもある。この北京オリンピックはチベット人の声を世界に伝える最大の機会であり、またこの機会を逃せば次がなかなか見いだせないだろう。
 
 そしてオリンピック開催により中国はさらに経済的に発展し、これがさらなる軍拡に繋がる。巨大な軍事力を背景にすれば国際社会の声の影響力は低下するだろう。中国の体質が変わらないまま北京オリンピックが開催されれば、その結果、第二のダルフール紛争が起こるかもしれない、そしてチベット人への非人道的行為がさらにエスカレートするかもしれない。中国との摩擦を回避しようと、無条件のまま安易にオリンピックに出場すればそれこそ無責任である。
 
 そして最も気をつけなければならないのがオリンピック閉会後だ。それまで抑えていた中国当局によるチベット人への復讐だ。もうすでに数千人のチベット人が逮捕、拘束されていると「チベット人権センター」が発表している。

  オリンピック出場の条件として国連などによる国際調査団の受け入れとダライラマとの直接対話を中国に強く要求するべきではないだろうか。オリンピックと政治は別問題とよく言われるが、本当にそうでしょうか。そもそもチョモランマの山頂にまで聖火リレーし、オリンピック開催までに急ピッチでラサを開発し、「中国のチベット」を演出しようとしている中国自身がオリンピックを政治利用しているではないか。「オリンピックと政治は別問題」は所詮は綺麗ごとであり、建前でしょうに、それを鵜呑みにしたらそれこそ中国の思うつぼでしかない
  

 チョモランマは私にとっての聖地でもあります。中国にとってタブー中のタブーであるチベット問題について発言を繰り返せば二度とチベットに入れなくなるかもしれない。すでにその手の忠告がないはずもない。ひょっとすると、もう二度とチョモランマに帰れないかもしれない。私の故郷が一つ奪われてしまうかもしれない。極めてデリケートなテーマだけに正直、発言に躊躇もしたが、しかし、現場を知っている人間は逃げられない。そして語らないことは加担する事と同じだ。確かに一登山家に出来る事は限られている。しかし、私にも何かが出来るはず。そうせめて声を上げ続けていきたい。

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