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2008年エベレスト清掃登山 , ヒマラヤ , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

私たちは動物ではない 家を失うぐらいなら死んだ方がまし ~氷河湖決壊に怯える村人たち~

2008年エベレスト清掃登山 , ヒマラヤ , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

2008/05/08

私たちは動物ではない 家を失うぐらいなら死んだ方がまし ~氷河湖決壊に怯える村人たち~

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この度はエベレスト街道周辺で氷河湖の視察を行ってきたが出来る限り多くの村人から声を集めてきた。確かにイムジャ氷河湖などの実態は多くの学者によってそれぞれが発表し様々な指摘がなされてきたが、私を含めその関係者のみなさんは地元民ではない。したがってよほど運が悪くない限り氷河湖が決壊する時にその場に居合わせることもないだろう。仮にイムジャ氷河湖が決壊したとしても自らの生命財産を失うわけではない。逆に学者の先生方にとっては氷河湖が決壊すれば活躍の場が増えるのかもしれない。

しかし、村人は違う。仮にイムジャ氷河湖が決壊すれば、エベレスト街道沿いの村々の多くも、あのサバイ湖決壊によって辺り一面がひどくえぐられ跡形もなく流されてしまったように、いやそれ以上に残酷に、そして一瞬にしてこの世から姿を消すだろう。
我々(学者の先生方も含む)はあくまでも安全な場所からやってきて、それでイムジャ氷河湖を含めた氷河湖の拡大が及ぼす決壊の危険性であり、想定される被害、また決壊させないための対応策についてあれこれ訴えているに過ぎず、「他人事」と言ってしまえば「他人事」なのである。

いつでもどこの世界でも同じ事が決まって繰り返されるのだが、氷河、温暖化関係など学者の先生方、また様々な関係者と接してみると、私の主観かもしれないが、この限られた世界の中にもいわゆる対立の構造が見受けられたりする。限られた世界ゆえになおさらなのかもしれないが・・・。しかしそんな事は被害を受けるかもしれない「当事者」からすればまったくもってどうでもいい話で、とにかく早くアクションを起こしてほしいのだ。

前回の記事にも書いたように、もし私たちの住み家の頭上に今にも決壊しそうな巨大な氷河湖があればまた違った展開になるのかもしれない。大切な事は少しでも当事者の気持ちに近づくその努力だ。その為の「現場」だと私は感じている。


昨年8月、トゥクラ村での洪水で経営していた山小屋が流されてしまったディキ・シェルパ(44歳)に話を聞いた。92年に初めてヒマラヤに訪れた頃から私はこの小さな山小屋を定宿にしてきたが、昨年12月に久々にトゥクラ村に訪れた時に山小屋もろ共その周辺の地面までが削られてなくなっている光景にしばし呆然とまた絶句してしまった。ガイドのアンドルジ・シェルパに「あの山小屋のおばさんは!」と確認したら「彼女は助かって今はペリチェ村に住んでいる」と無事を確認しホッとしたが、しかし長年にわたり彼女が築いてきたあの山小屋を失い今はどうしているのだろうかと気がかりであった。

トゥクラで洪水被害にあったディキさん
トゥクラで洪水被害にあったディキさん


その山小屋の主であったディキ・シェルパは我々のインタビューに、

「昨年の夏に水と砂が一緒になって(いわゆる土石流のことだと思われる)何度も流れてきて、私の目の前でロッジが流されていった。なんとか逃げることは出来たけれども少しのお金と少しの衣服だけしかロッジから運び出せなかった。私には子どもも土地もない。私にとってあのロッジが全てだった。今はペリチェ村で喫茶店を借りてポーター相手に商売しているけれど、とても厳しいよ。私は全てを失ったけれど、でも、いつかまたロッジを建てられるようになるまで諦めずに頑張るさ」

と気丈に振舞ってくれたのが唯一の救いでもあったが、頬はすっかりと痩せこけ眼には涙が溜まり疲労困憊されているのは明らかであった。


そして対照的であったのがディンボチェ在中のソナムイシ・シェルパさん(60歳)だ。

「イムジャ氷河湖が決壊したらこの村は10分もしないうちにみんな流されてしまう。最近、外国人(日本人のことだろうと思われる)が決壊した時の警報器を設置したと聞いたが、そんなものになんの意味があるのだ!警報がなって逃げだせたとしても家も財産も全て失ったらその先どうやって生きていけばいいのか。この村にも若い人が少ない。爺さん,婆さんばかりよ。今からもう一度働いて家を建てることなどできるわけない!犬のように動物ならば体一つで生きていけるかもしれなしが私たちは人間だ。洪水で家が流されるぐらいならば一緒に流されて死んだ方がましだ!政府はまったく無関心だ。温暖化も私たちのせいではない。一体誰に訴えればいいのか。そこの積まれた石を見てごらん。若いシェルパ達が新しい家を建てるために運んできたが、洪水が起きてしまったら全て流されるからしばらく様子を見ているんだよ。誰かがイムジャの水を抜くかも知らない。イムジャが安全になったら家を建てるんだと。それまで石は積まれたままさ。いつになったら家が建つのか、それともその前にこの村が流されてなくなってしまうのか。私はお金がないから危なくてもこの村に残るしかないよ」

ディンボチェ在住でソナムさん
ディンボチェ在住でソナムさん

と約30分以上にわたって焦りから来る危機感なのだろう、また怒りをどこにぶつけていいのかも分からないのだろう、その蓄積された不満が一気に我々のカメラに向かって大爆発した。彼はしきりに「警報器はなんの意味もない」と訴えていたが、それはあくまでも極論であって私の解釈では「警報器のみでは意味がない」ということなのだろう。

それはそうだろう。警報器はあくまでも緊急事態(決壊時)に一刻も早く決壊を村人に知らせる手段であって決壊そのものを防ぐものではない。したがって「緊急避難」としての「警報器」と同時に必要不可欠となるのが決壊させない対策である。その為には氷河湖の湖水を抜くのか、または氷河湖の壁面が崩れないように砂防技術などによって強化し決壊しないようにするのか、様々な方法があるのだろう。

このクンブ地方の山旅で改めて感じたのが速やかな氷河湖の決壊対策に関する調査と同時に可能な限り早い段階での例えば「水抜き作戦」などといったアクションである。現場の緊迫感を早く日本に伝えたい。5月8日はカトマンズからヘリでマカルー方面にあるローアバルン氷河湖に向かう。
決壊を恐れ建設をみあわせた資材だという
決壊を恐れ建設をみあわせた資材だという

2008年5月5日 カトマンズにて 野口健

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