4月27日、サマ村からヘリでカトマンズに戻る。28日にカトマンズ市内にて記者会見を行いました。
それにしてもネパールがまたキナ臭い。共産ゲリラのマオイストが昨年、政権の座を明け渡してからというもの、再び彼らのテロ活動が復活。5月1日からネパール全土にストライキを呼びかけており、
その5月1日に向けてネパール全国からマオイストがカトマンズに大集合。カトマンズ市内の学校の多くが既に彼らに占拠され、門は鍵をかけられ地方からやってきたマオイストらの宿泊所となっている。おかげで多くの学校は休校となっている。
これはあくまでも私見ですが、この国は王室制度を廃止すべきではなかったのでは。カースト社会であり、多民族国家のネパールで国家という概念が非常に弱い。国王によって国民がまとまってきた歴史がある。特に暗殺された国王時代までは。いずれにせよ、民主化するのには段階が必要ではないだろうか。特に教育。マオイストの支持層に多いのは高等教育を受けていない貧困層。つまりカーストの低い人たちが目立つのだが、彼らがいきなり権力を握ったところで国を治める事などできない。義務教育を徹底し、国民がある一定レベルの知識を共有してから民主化に向けて動き出したほうがいいのでは・・・。
余計なお世話はここまでにして、さて、今回の記者会見はツラギ氷河湖視察に対する報告と、マナスル地域開発計画プロジェクトの発表。
ツラギ氷河湖はマルシャンディ川の上流にあり、問題は仮にツラギ氷河湖が決壊すればマルシャンディ川にある2つの水力発電所(7万キロワット・6万9000キロワット)が壊滅的なダメージを受ける可能性があること。ただであえ電力不足が深刻なネパール。首都のカトマンズですら一日の半分近くが慢性的な停電。水力発電で国家予算の大半を占めているブータンが氷河湖決壊問題に熱心なのもそのため。94年のルゲ・ツォ氷河湖の決壊で多くの犠牲者を出し、また水力発電所もダメージを受けたことがあったとのこと。
2007年、ブータンにてドルジ首相(当時)と会談させて頂いたが氷河湖の決壊が続けば発電所に大量の土砂が流れ込み、機能しなくなることについて「それこそブータンの終焉を意味している。国民の生命、財産を守るためにも氷河湖問題は避けて通れない」と話されていた。そして2007年12月に大分で開催された「第一回アジア・太平洋水サミット」でヒマラヤ山域国から参加した唯一の首相であった。ブータンはそれだけ危機感を抱いている。そして今年、日本の協力でブータンの氷河湖の調査が始まる。
ところがネパールは内政問題のゴタゴタを永遠と繰り返し、なかなか環境問題、特に温暖化問題に対しアクションが鈍い。そこでネパールのマスコミの方々に対しブータンの取り組みを紹介しながら、「あくまでもネパール自身が声を上げない限り国際社会は注目しないだろう」と伝えた。
最近のICIMOD(国際総合山岳開発センター)の調査結果では1995年に比べツラギ氷河湖の長さは500m長くなり、面積は0・963ヘーホメートル。水量は60万立方メートル増えた。そして決壊すれば16万5000人に被害を与え損害被害額は297億ルピー(1ルピー約0・7円)。
ICOMODによるとネパール全体に1466個の氷河湖があり、そのうち特に決壊リスクの高い氷河湖は6カ所とのこと。そのうちの1つにツラギ氷河湖が含まれているのだ。
IPCC4次報告書の過ちは過ちとして、だからといって氷河湖の融解が起こっていないわけではない。IPCC騒動によって氷河融解問題に対する社会的なトーンが下がっているのを強く感じますが、もう一度注目させなければならない。人から「野口さんもこの問題、よく粘るねぇ~。もう世間は温暖化問題に飽きているでしょう」と言われる事もあるがそんな次元の話ではない。決壊してからでは遅いのだ。
そして次に発表したのが、マナスル地域開発プロジェクト。学校建設を終了したら次のステップとしてマナスル地域の地域開発。エベレスト街道やアンナプルナ地域に比べてマナスル地域は圧倒的にトレッカーなどの観光客が少ない。(2009年のアンナプルナ地域のトレッカー訪問数7万5058人に対しマナスル地域は1769人)。1つには山小屋などの宿泊施設が充実していないこと。そして入山許可書が複雑でコストが多くかかること。そしてピーアル不足。
マナスル地域の人々は現金収入が限られており、森林を伐採しチベットに売る、そして最近問題になりつつあるのが冬虫夏草。漢方薬ですが、これが高値で売買されるため、冬虫夏草を巡って村人同士による殺人事件まで起きている。(我が隊も昨年、この
冬虫夏草騒動に巻き込まれ閉口させられた)
おかげでサマ村周辺も例外ではなく昔は森林地帯であった場所が今では草原となっている。森林は有限であり、森林伐採せずともある程度の現金収入を得られる方法を考えなければならない。魅力的なトレッキングルートの1つでありながら地元民がその魅力を理解していない。そしてサービス業なる概念も持ち得ていない。毎年、何名かをエベレスト街道やアンナプルナ地域などにいわゆる研修目的で派遣してみてはどうか。
また森林伐採問題ですが、サマ村を中心に植林事業の展開。また、ヤクの毛を使って一部の地元の女性などが絨毯を作っているが、例えば技術的な訓練施設(職業訓練所のようなもの)が出来れば産業として成り立つのではないか等々。
どこまで出来るのか分かりませんが、マナスル基金を立ち上げ学校建設を中心に徐々にマナスル地域全体に対し、何が出来るのか私なりに精一杯取り組んでみたい。マナスル峰は日本とネパール両国において友好のシンボルであり、私たち日本人がマナスル地域を大切にする意味は大きい。
ネパールに来る度にこうして記者会見や記者懇談会を行ってきていますが、これもいつものコツコツと同じ。積み重ねです。社会的な活動を行う場合はこうしてコツコツと社会に対し説明する事がなによりも大切。すぐに伝わるものではありません。
例えば、ネパールで初めて記者会見を開いた時のこと。ネパール人記者から「あなたはエベレストのゴミを日本に持ち帰っていくらで売っているのですか?日本ではエベレストのゴミが高く売れるのか」といった質問があった。エベレスト清掃活動が正しく理解されていない時代がありましたが、今ではそんな事も笑い話。エベレスト清掃活動もネパール社会にしっかりと伝わり、今ではネパール人によってエベレスト清掃活動が行われているのだ。丁寧に伝え続ける事によって徐々に伝わり浸透していくものです。
ライジングネパール紙に掲載されました
フィリピンでの遺骨収集も同じ事で、空援隊は一部の週刊誌、一部の遺族関係者、一部の戦友会関係者からであっても、疑惑を抱かれた以上、私は記者会見などを行い、疑惑に対し、しっかりと丁寧に説明するべきだと考えています。ご遺骨収集基金による寄付金、また税金も使われているわけですから、説明責任は果たさなければならないと考えています。社会的な活動とはそういった事の積み重ねだと私自身は考えています。
ヒマラヤ遠征中、私の事務所経由で、この度の騒動に対する空援隊の公式見解が私の元に届きましたが、その公式見解(または統一見解)に関し、私なりの考えがありますので、近々、私見を述べさせて頂きます。
さて、明日からはバングラディシュ。次のレポートはバングラディシュからになります。
4月28日 カトマンズにて 野口健