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8月15日に感じる事  後編

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2011/08/16

8月15日に感じる事  後編

 1枚目 沖縄の遺骨収集現場にて
沖縄の遺骨収集現場にて

フィリピンや沖縄での遺骨収集活動に加わり約5年目。遺骨収集活動を始めた動機などはこのブログや著書にも散々書いていますのでここでは省略しますが、先の大戦での海外戦没者数は約240万人、その内の約125万柱が日本へと送還されている。つまり未帰還のご遺骨は約115万柱。日本政府は敗戦から30年が経過した1975年度を遺骨収集における一つの区切りとし、その後は主に民間団体等から情報があった場合に収集してきた。つまり民間任せの状態が続いている。

 確か尾辻厚生大臣の時代だっただろうか。厚生省は「おおむね3年間を目処に南方地域で集中的な遺骨収集を行う」と発表したが、なぜ3年間なのか、また、06年度からの「集中的な情報収集」に関しても民間団体に任せきりだったのではないか。そもそもこの3年間の間に民間団体抜きに国がどれだけ具体的なアクションを起こしてきたのだろうか。この事を厚労省に何度も質問したが、いつも歯切れが悪かった。

 「ああ~この国は本気でやろうとしていないな。やらない理由を一生懸命さがしているのか。または取り残されたご遺骨に関し国民に早く忘れてほしいと思っているのでは。戦友、遺族が高齢化している。時間の問題で風化していく事を望んでいやしないか」などとそんなことばかりを感じていた。

 アメリカが全て正しいとは思わないが、こと遺骨収集に関しては国を上げて徹底的に行っている。菅政権になってようやく力を入れ始めた硫黄島もアメリカは既に徹底的に調べ上げ米兵の遺骨収集活動を行っていた。情けない事に日本政府はアメリカサイドから硫黄島の情報を入手しなければならなかったのだ。

 そして沖縄も・・・。昨年から沖縄での遺骨収集にも関わり始めましたが、例えばレイテ島などの海外や自衛隊しか駐在していなかった硫黄島と違い沖縄は日本であり、そして多くの人々が生活している。その沖縄本島にはいまだ多くのご遺骨が洞窟や豪の中に埋もれたままだという。「本当かな」と半信半疑、沖縄へと向かった。そこで出会ったのが国吉勇さん(当時71歳)。国吉さんはたった一人で50年間遺骨収集、遺品収拾を行ってこられたのだ。その国吉勇さんとご一緒させて頂き昨年の10月、12月、そして今年の6月と3回ほど遺骨収集活動に参加させて頂いた。真っ暗やみの豪の中をスコップで掘ればその土砂の底からご遺骨や遺留品がいくつも発見された。6月26日に糸満市で行われた遺骨収集活動では約30体ものご遺骨が発見。たった1日の活動で・・・。しかも住宅街のすぐ裏で。

 フィリピンなどの海外に遺骨が取り残されているのも当然問題であるが、国内でしかも人が住んでいる沖縄がこの様な状況である事はさらに大問題だ。そしてご遺骨と一緒に掘り起こされるのは無数の不発弾。私もたかだか3回の沖縄での活動で数え切れないほどの不発弾(迫撃砲、38式銃の弾、手榴弾など)を見つけていた。
2番目 蒸し暑い豪の中で収集活動が続く
蒸し暑い豪の中で収集活動が続く
3番目

4番目

5番目 国吉さんたちと
国吉さんたちと

 毎年、8月15日になると決まって「靖国神社」が注目され、参拝する政治家に対し「公人としてか」「それとも私人としてか」、などとそんなことばかりを繰り返している。語弊があるかもしれないが、長年もの間、国のために戦い亡くなっていた英霊を放置してきたこの国の政治家たちに私は言いたい。「靖国神社に参拝しただけで満足してくれるな。未だにあの薄暗い洞窟、豪の中で土砂に埋まり、フィリピンなどのジャングルでは未だに野ざらしにされたままに、日本から忘れ去られた英霊たちの無念、それが分かりますか。ご遺骨が私たちの迎えを待っているんだということを肝に銘じて政治を行ってほしい。そして具体的なアクションを起こして頂きたい」と。これも色々な場で発言してきましたが、私が何故に遺骨収集活動を行っているのか。国のために戦い亡くなっていった方々を大切にしない国は滅びていく、私はそう感じている。遺骨収集は過去を振り返るようでいて、しかし、同時にこれからの日本を思えばこそやらなければならない活動だと思う。そして遺骨収集は国家のプライドの問題だとも。

 靖国神社参拝の国会議員の「公人としてか、私人としてか」など私は、全くもって興味がない。そんな事よりも8月15日にだけ(ばかりに)靖国神社に参拝する事にどれだけ意味があるのだろうか。私も靖国神社には毎年、何度も参拝している。日本人とても大切な事だと思う。しかしそれは心があればのこと。私の偏見かもしれないが、もし仮に政治的なパフォーマンスとしての靖国参拝ならばむしろ英霊に対して失礼ではないか。

 テレビ画面に映し出される8月15日の靖国神社の騒ぎが私にはどうしても滑稽に映ってしまう。

 「前編」に引き続き「後編」も実にクドクなりました。しかしこのテーマはサラリとはいかない。色々と語弊があるかもしれませんが、所詮は一介の登山家の独り言と思って頂ければそれで結構です。ここに書いた事はあくまでも私が現場から感じた事に過ぎない。人それぞれの考え方がありますから、意見の食い違いは当然のこと。当たり前です。議論している内はまだいい。そんな事よりも最も懸念しなければならないのは「無関心」であるということ。何よりも怖いのがこの国の人々が無関心になっていくことです。

 2009年11月13日、天皇陛下御即位20年を祝う記念式典が開催され、これに先立ち、記者会見で陛下は日本の将来への心配を問われた際に「私はむしろ心配なのは、次第に過去の歴史が忘れられていくのではないかということです」とお話しされ、第二次世界大戦にも触れられたあとに、「過去の歴史的事実を十分に知って、未来に備える事が大切に思います」と述べられました。遺骨収集活動も、まさに陛下のお言葉そのものです。

 前編、後編と「8月15日に思う事」を書かせて頂きましたが、これは私にとっての8月15日。皆さんにとってもそれぞれの8月15日があるでしょう。それを語り合う事も大切だと思います。それではここで終わりとします。ありがとうございました。

6番目 遺骨収集について那覇市にて講演
遺骨収集について那覇市にて講演

7番目 遺骨収集活動後に対馬丸記念館に訪れて
遺骨収集活動後に対馬丸記念館に訪れて

8番目 775人もの子どもたちが犠牲になった・・・。

775人もの子どもたちが犠牲になった・・・


8月15日 野口健

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