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2013年ヒマラヤ遠征

なかなか、近づけないヤルンリー峰

2013年ヒマラヤ遠征

2013/04/23

なかなか、近づけないヤルンリー峰

4月21日、ナーからヤルンリーBC(4902M)に上がったものの、一向に雪が止まず周辺からは絶えず雪崩の音が響き渡ってくる。ガスによって視界が塞がれているためにどこで雪崩が発生しているのか分からない。音がコダマし、籠っているので少し離れていてもとても近くに感じられたりするし、視界がないと雪崩の音がする度にビクビクする。特に深夜に雪崩の音で飛び起きるときは実に心臓に悪い。雪崩が直撃しにくい所を選んでテントを張っているもののやはり精神的にいい訳もなく。テントの中で雪崩に遭遇したらそれこそアウト。

4月22日、午前9時半から雪が降り始めた。これで8日間、雪が降りっぱなし。特に20〜21日は夜の雷が凄まじかった。すぐ近くのテシラプツァ峠を超えればクンブ地方(エベレストがある地域)だが、クンブ地方も同じような状況なのだろうか。だとしたらエベレストも大変な事になっているだろう。しかし、峠を一つ超えると気候がガラリと変わることもあるのでどうなっているのだろうか。

エベレストのアイスフォールでシェルパ一人がクレバスに滑落して死亡したとの残念なニュースも伝わってきた。ヒマラヤでは、人が死なない年はないだろう。ちょっとした所にも落とし穴が隠されていたりする。エベレストもそうだし、このヤルンリーだって同じこと。いや、人生そのものにもどこに落とし穴があるのか分かったもんじゃない。

とにかく気を抜かないこと。技術的に決して難しくない山だって一つの小さなチョンボがそのまま命取りになる事もある。「死」に対する恐怖を抱き続ける事がとても大切だ。

22日はベースキャンプから上部の雪の状況がどうなっているのか偵察に出かけた。僕は22歳の時にこのヤルンリーに登っているが、その時の印象とはあまりにも違いすぎて感覚的に思い出せない。200Mほど標高を上げたが通常1時間もあれば到達できそうなものの、今回は3時間弱かかってしまった。雪が深く足がズボズボと潜る。尾根にでると幾分か楽になるが、それでもこのズボズボが辛い。雪崩の起きそうな場所の確認をしたが、特に要注意なのは一箇所。そこを無事にクリアしたらなんとかなりそうだとシェルパたちと確認しベースキャンプに戻る。夜、テントの中でヤルンリーにどのタイミングで登るのかシェルパ達と話し合った。「明日(23日)、もし晴れたら登ろう」との意見も上がったが、しばらく考えて「それはヤメよう」とシェルパに告げた。これだけ大量に雪が降ったわけで、雪崩のリスクを考えなければならない。「仮に明日、晴れても雪の状態が落ち着くまで最低、一日は間を開けよう。早くて24日だ」と。何が正しい判断なのか、厳密に言えば誰にも分からない。最終的には「勘」なのだろうと感じることがよくある。故に当たることもあれば外れる事もある。このヒマラヤで100%完璧な判断など誰が出来るものかと。
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闇雲に突っ込み遭難するケースもあれば、慎重になりすぎて登れないケースもある。「無理をしない」は確かに大切な考え方だが、例えばエベレストに登ること自体が既に無理をしているわけで、そもそも論として、無理をしなければ登れっこない。ただ、「していい無理」と「してはいけない無理」があるはず。その境は極めてスレスレなのですが。
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ヤルンリーをエベレストと同じように緊張(集中)しながら登るのは難しいかもしれないけれど、でも可能な限り同じような気持ちを抱くことが大切です。学生の頃に所属していた山岳会があり、そのメンバーの中にヨーロッパの大岸壁をいくつも登った大先輩がいましたが、その方は丹沢のちょっとした沢で足を滑らせ5メートルほど滑落して亡くなられた。あの遭難からの学びは決してどんな山でも気を抜いてはならないということ。
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言葉では簡単ですが「気を抜かない」ということは結構、難しいことです。人間ついつい気を抜くもの。故に何事もそうですが慣れてきたころが危ないわけでね。

さて、明日の天候はどうなるのかな。成るようになるし、また、成るようにしかならない。人生そんなものです。

2013年4月22日 ヤルンリーBCにて 野口健

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