産経新聞に連載が掲載されました。
ぜひご覧ください。
2024年5月2日 産経新聞れ掲載
昨年の夏頃から「山梨県が富士山の入山制限を検討」という記事を目にするようになったのだが、半信半疑で読んでいた。富士山の環境問題に関わって二十数年、何人もの山梨県知事と意見交換を行ってきたが、富士山の入山制限に言及した知事は僕の知る限りいなかったからだ。
昨今の動きで特に驚かされたのは現知事・長崎幸太郎氏の「このままでは世界遺産登録の取り消しもあり得る」という発言だ。僕は富士山が世界遺産に登録される前、山梨県職員と交わしたやり取りを思い出した。その職員は「入山規制制度を設けないまま世界遺産に登録されたら取り消しになる可能性がある、と知事(当時)に伝えたが、ネガティブなメッセージを出すわけにはいかない」と一蹴されたと...。その職員は「外部から声を上げないと変えられない」として、私に世界遺産登録に向けた内部情報を明かし「公にしてほしい」と伝えたのだ。この翌年に出版した私の本に、彼らとのやり取りの詳細を書かせていただいた。彼らにとってもリスクが大きかったはずだ。
僕は、長崎知事の真意を確かめるべく山梨県庁へ向かった。開口一番、長崎知事は「富士山の入山規制をやります。夜間の登山を事実上、規制するために、5合目から先の県道(登山道の一部)を廃止します。そうなれば県の権限によって事実上の規制が可能になります」と。「野口さん、私はどんな反対があろうともやりますよ」と強い決意をにじませた。
富士山は日本を代表する観光地である。富士山を取り巻く利権の渦に立ち向かうには覚悟が必要だ。驚かされたのは僕の本をテーブルの上に置きながら「野口さんが10年前に書かれたことに驚いています。今われわれが必死に取り組んでいこうとしていることがここに書かれています。私の教科書です」と。職員たちの「あの覚悟の訴え」がついに知事に届いたのだ、と胸が熱くなった。
山梨県議会も全会一致で賛成。今シーズンから入山規制がスタートする。課題は多いが、「山が動いた」。そう富士山よりも大きな山が。
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