2002年シシャパンマ , 自己責任と危機管理

2002/11/23

命あっての物種

シシャパンマから逃げ帰ってからの入院に退院。医師からの
「野口さんはテンションを上げる努力はしてきたかもしれませんが、どれだけテンションを下げる努力をしましたか?」
の質問に、考えもしていなかっただけに返事ができなかった。確かに
「テンションを下げる努力」
はしてこなかった。
「上げた分はしっかり下げる」
ということなんだろうけど、テンションを下げる努力・・・。これは自覚できないだけに難しい。

 体調不良で緊急帰国して病院での検査が始まった頃、ヒマラヤにいた登山家の小西浩文さんから電話を頂いた。小西さんは8000m全ての無酸素登頂を目指しているトップレベルの登山家だ。その小西さんから
「ケン!シシャパンマのことはシェルパ達から聞いたよ。大変だったね~でも、気にするな。毎年、ヒマラヤに挑戦していればそんなこともあるから。そんなもんだよ。だから、気にするな。」
とわざわざ連絡してくれた。小西さんの人柄が表れていて嬉しかった。

 確かにこの10年間でヒマラヤ遠征は20回を超え、8000m峰には7年間連続して関わってきた。そして体を休める間もなく、国内での活動に没頭してきた。順風に帆を揚げる、という気持ちで、健康管理という発想など,もたなかったのだろう。ただ、どこかで感じていたのは「頑張る」ということへの疲れ、そして大きく膨らんでしまった義務感への束縛感。そんな中、本来の自分をとりもどそうと、シシャパンマに突っ込んだあげくの自爆であったように今になって思えてくる。シシャパンマは203高地にあらず、と思いながらも結局は203高地になってしまった。しかし、その後再びヒマラヤにいる小西さんから連絡を頂いた。
「いや~ケン!シシャパンマ早く辞めて良かったよ!ケンが下りてから間もなく、シシャパンマの最終キャンプで雪崩れがおきてね、テントごと流されたらしいよ。被害がでたらしい。この秋のヒマラヤは異常だよ。」

 結局、この秋のシシャパンマは雪崩で5名の死者をだし、登頂者はゼロに終わった。体調不良がなければ、僕も他の隊と一緒にアタック態勢に入っていただろう。最後の最後で運に見放されていなかったのかもしれない。毎年のように僕の仲間達がその命を絶っている。そんな環境のなかでこれだけヒマラヤ遠征を繰り返してきたんだから、むしろ病で済んで、ラッキーだったのかもしれない。ただ、あの「敗北」の繰り返しはもう許されないし、多くの方々にご迷惑をおかけしてしまった。代償は大きかった。また、あの出来事から多くを学ばなければならない。

 先週からようやくトレーニングを開始した。全身の筋肉がすっかり落ちてしまったが、一からのスタートとして来春のエベレスト清掃登山までの限られた時間になにができるのか、できることはなんでもしたい。色々な専門家にもアドバイスを頂いた。そんな中でスポーツ栄養アドバイザーの石川三知さんとパートナーを組むこととなった。彼女は多くのプロスポーツ選手や大学の水泳部や陸上部などのアスリートのトレーナとして、また栄養面での指導を行ってきている。日本ではあまり聞きなれない「スポーツ栄養学」だが新たな分野への取り組みだ。おかげで僕のカバンにはいつでもサプリメントの容器がぎっしりと並び、全国講演の旅先でも食事がとれなかった僕の体を支えてくれた。血液検査の結果も退院直後でありながら、バランスがとれていたようだ。年末恒例のヒマラヤ登山も今年は中止。エベレストまでは国内で石川さんのアドバイスを受けながら体を作り上げる。正月を日本で過ごすのは何年ぶりだろうか・・・。時に雲隠れしながら、守りの態勢を整え、そして痛んだ体を治し、新たな燃料を補給し、体の錆を落として再び出かける。闇雲に前へ前へと突き進むだけでは限界がある。
「テンションを下げる努力」
とは、ゆったりとした時間の中で客観的に自身のおかれた立場、また自分の肉体や精神面と素直に向き合える環境を整えることを意味することだと、僕は受け取った。時には
「なんとかならぁ~なぁ~」
で乗り換えたい。
「いつも前進があるだけだった」
これは植村直己さんの言葉だ。この言葉が、あのマッキンリーにつながってしまったように僕には思えてならない。

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