私の進む道

2003/02/07

五感

今となっては、エベレスト(サガルマータ・チョモランマ)や富士山での清掃活動が大きく方々で取り上げていただき、野口健といえば「環境保護活動家」といった印象をもたれることが多々ある。しかし、学生時代からの仲間からは
「お前が環境保護ねぇ~」
と、よく冷やかされる。学生時代に共に寮で過ごした仲間達には
「お前のロッカーを開けたら雪崩れのように衣服が落ちてきた」
だとか、
「部屋を汚しすぎて反省文書かされていたのはお前だけだった」
とか、整理整頓が大の苦手だった僕がその後、登山を始め、世界で最も過酷な清掃活動を行うようになったことに驚きを隠せないようだった。

 しかし、一番驚いているのは自分自身かもしれない。16歳から世界7大陸最高峰登頂へのチャレンジが始まり13年間世界の高山に関わってきた。高校時代に落ちこぼれ、暴力を振るったあげくに停学。そんな時に山と出会い、自然と接する中で自分自身が抱えていた悩みや不満などがいかに小さな些細なことであったのかを感じとった。97年に初めてチョモランマに挑み、そこで至る所に散乱する日本語で書かれていたゴミを目にした。欧米人登山家から僕の元に
「日本は経済は一流、しかし文化は3流」
また
「ヒマラヤをマウント・フジにするな!」
といった批判が相次いだ。確かに世界中の山々に登ってきたが山頂に登頂した瞬間に自動販売機がズラリと並んでいたのは富士山だけであった。美しくて世界的に有名だった富士山が汚い山の代表例とされていたことに愕然としながらも否定できなった。しかし、「文化3流」発言は、大好きな日本を否定された悲しさや怒りを抑えるのに必死だった。度重なる過剰なジャパン・バッシングの中で時に反論してきたが、しかし、日本語が書かれたゴミの山の前では反論すら許されなかった。この悔しさがきっかけとなって始めて「自然保護」というテーマが自分自身に芽生えた。正直、僕も山にゴミを捨ててきた張本人でもある。意識はしていなかったが、しかし、自然を汚してきた加害者だ。その事に気がついたのだから、あの欧米人登山家からの痛烈な批判にはある意味助けられたと言える。

 エベレストに登頂した翌年から4年連続と決めた清掃登山。8000mでの清掃活動の肉体的、精神的な過酷さは、想像を遥かに越えた。共に清掃活動を行ったシェルパにはあまりの過酷さに活動を終える頃には肋骨がくっきりと見えるほどに痩せこけ、体を壊した人もいる。清掃登山にかかわったシェルパは生活のため休むまもなく他の登山隊に参加し、この3年間で3名のシェルパが息をひきとっている。僕自身も入退院を繰り返し、正直この活動を続けられるのか自信がなくなった時期もある。

 しかし、だれかがやらなければならない。そして亡くなっていたシェルパ達の死を無駄にしたくないという思いが次の清掃活動へと突き動かしているのかもしれない。

 講演でも、このホームページ上でも何度も繰り返し発言している、エベレストのゴミと格闘したときに気がついたことがある。ゴミを捨てる隊と持ち帰る隊の違いが、その登山隊の出身国でおおよそ分かれていることだ。

 ドイツ、デンマーク、スイスといった国々の登山隊はゴミを持ってかえる努力を怠らない反面、日本、中国、韓国の登山隊はいとも簡単にゴミを捨てていく。そこから見えてくるのは登山家の問題というよりもその国々の国民性ではないだろうか。 エベレストに散乱する日本語のゴミは日本社会の縮図だ。僕ら登山家は生活の場が山だ。しかし、都会で生活している人々は町が生活の場だ。登山家が山でゴミを捨てるのと、都会で生きる人々が自分達の町を汚すのと何が違うのだろうか。
「お前だって山を汚したくせにいまさら環境保護なんて言うな!」
といった指摘もあるが、だからこそ身を削りながらこの清掃活動を続けている。

 物事の深刻さに気がついた時に、そこから生き方を変えるのも勇気。いつまでも過去に捕らわれていては「前へ前へ」と進めない。まもなく最後のエベレスト清掃活動が始まろうとしている。五感で地球を守ることの素晴らしさを確かめてきたい。

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