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白神山地を守ってきたもの
白神山地のマタギ工藤氏との対談

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2006/10/09

白神山地を守ってきたもの
白神山地のマタギ工藤氏との対談

世界の山々を登ってきた野口健が「もっとも好きな場所」と言う場所、それが白神山地だ。白神山地は、人間の影響をほとんど受けていない原生的なブナ 天然林が世界最大の規模で分布するとされ、その価値が見出され 1993 年自然遺産として世界遺産に登録された。 野口は毎年のように白神山地、西目屋村に住むマタギの工藤光治氏とお気に入りの白神山地を歩いている。

「心を鬼にする又鬼(マタギ)の教え」

野口 「最初はマタギってヒゲ面でイカつい、怖い人クマのような人かと思っていましたよ。工藤さんからマタギの由来が、熊を撃つために心を又(また)鬼にするからマタギというと聞いて、心のある人間だってほっとしました(笑)。マタギは山では特別な山言葉を使い、咳払い、あくび、足音を立てるのも禁止なんて厳しい! 工藤さんは何歳のときから白神山地に入っているのですか?」

工藤 「 15 の時に兄と一緒に山に入り、 65 歳のいままでずっと、白神山地を歩いて先人からの教えを守って歩き続け、20年ぐらい経ったときに心の底から『白神と生きてきてよかった』ようやく思えるようになりました。父からは、『生きることは食べることだ』と教わりました。つまり、動物でも植物でもその命をいただいて生きる。私たちマタギは白神山地から熊やキノコや山菜など、生きるための恵みをいただいて暮らしてきました。」

野口 「その『命をいただく』という感覚が、都市での生活では、解からなくなってきている。スーパーで買った肉に対しても誰かが殺して、解体しているのが抜け落ちてしまっているのですね。いただくという感覚がないと、大事にできない。日本は食料を大量に輸入して、その2割も棄てている。この2割は世界中の ODA で食糧援助している量の2倍もの量になるそう。」

工藤 「白神山地を守りたい、と観光に来た方々がおっしゃいますが、自分の足元からいろいろと見直すべきなのです。山での教えはとりすぎてはいけない。無尽蔵にあるように見えるけれども、全てのものには限りがある。必要なものを必要なだけいただく。そうすれば、次の年もきっと恵みを授けてくれるものなのです。」

野口 「工藤さんは、白神山地で生きて、大切にしているから、そう思えるけど、感謝の気持ちとか、その場所のことを知らない人はあればあるだけ全部採っちゃえって思うかもしれませんね。」

「世界遺産登録で変わってしまったもの」

白神山地の原生的なブナ天然林は、大規模な林道建設で壊滅的な危機を迎えた時期があった。工藤氏は、その反対運動に取り組み、白神山地を守った一人。林道建設が凍結され環境保護の盛り上がりとともに白神山地の価値が変わり、林野庁、環境省などが保護運動へと 180 度の転換。生態系保護地域の指定、さらに世界自然遺産の登録の過程で、様々な制約が白神山地に課せられるようになる。

野口 「ブナの漢字は、木に無いと書いて?。材として価値が無いからと聞いたことがあります。それを林野庁や県が売れる木を植えるために林道を通す計画を立てたわけですね。しかし、いまやブナ見直されて価値が貴重になりました。工藤さんからみて、白神山地が世界遺産になっていく過程で、なにか変わりましたか?」

工藤 「実は、以前のように熊を撃つことはできなくなりました。戦前はまったく規制は無かったのです。というのはマタギじゃないと熊は獲れなかった。戦後に狩猟法が制定されて狩猟できる期間が 11 月 15 日から 2 月 15 日に定められました。マタギは伝統的に冬眠明けの春に熊を捕ってきましたが、その時期の狩猟には村で3頭という頭数制限ができました。白神山地がこのままだときっと熊は増えると思います。」

野口 「日本全国では、2000頭もの熊が害獣として駆除されているそうですね。ほとんどの熊が棄てられているそうです。」

工藤 「わたしはこの制度の見直しをお願いしたいと思っています。昭和33年にカモシカを特別然記念物として保護しました。いまや増えすぎて害獣と言われている。」

野口 「鯨でも問題が出てきています。アフリカのレンジャーに聞いた話では、ゾウも保護のためか、その頭数が増えて、一日 400 キロもの草を食べる彼らの草地が無くなり、餓死するゾウが増えているそうです。」

「環境保護というカードの使い方」

工藤 「方針が変わって経験がない人が机上で仕組みづくりをするとどこかに無理が生じるもの。」

野口 「環境保護というカードの使い方を間違えると結果的に、残すべきものが残せなくなってしまう怖さを感じています。僕はマタギという文化も残すべきものだと思っています。自然というと、人と離して考えてしまう人が多いのですが、人を含めて自然だと思うのです。白神山地だったら、マタギも含めて白神山地という自然。アメリカの国立公園は立派ですけど、原住民のインディアンを追い出して国立公園を作った。もし、インディアンが開拓時代のアメリカ人のように、自然をどんどん開拓していったなら国立公園は公園として残っていない。ニュージーランドは、これに学び、先住民のマオイ族と共生して自然公園がある。日本では、北海道とアイヌの人、白神山地とマタギが似ている。全国の自然は生態系も違うし、住む人、文化も違う。世界遺産の弱点だと思うのが、同じ共通ルールで守ろうというのはちょっと問題がある。もっと地元の人、現場の声を取り入れるべき。」

工藤 「私は最後のマタギと言われますけど、若い人にマタギの心を伝えてマタギを残します。私の孫がマタギになる、って言っていますから(笑)」

自然から直接学べるものも多いが、それを仲介する人、マタギの姿や生き方から学ぶべきものもあまりにも多い。

 

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