野口健記者会見

エベレスト登頂

この度、「富士山・エベレスト同時清掃及びエベレスト登頂」を目的として活動をしてまいりました。5月15日(火)AM8時にエベレスト登頂を果しました。今回の挑戦は1997年に初めてエベレスト(中国側)に挑み、惜しくも登頂を断念した場所からの再挑戦でした。

1999年にはエベレスト(ネパール側)から挑戦し登頂を果すと同時に、7大陸最高峰世界最小年記録を樹立いたしました。(1999年当時)今回の登頂で、中国・ネパール両側からエベレスト登頂を果した8人目の日本人記録となりました。

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清掃登山

97年の初挑戦中に欧米の登山隊から、「エベレストをMt.FUJIにするのか?」と言われたのがきっかけで7大陸最高峰を制覇した後に、清掃登山をする事で私の大好きな山々に恩返しが出来ればと考えました。

2000年からエベレスト清掃登山を開始し、今回で6度目。2006年5月には、日本人が一番かかわりの深い山であり、昨年は日本・ネパール国交樹立50周年の記念事業としてマナスル清掃登山を実施いたしました。

マナスルでの清掃登山後、サマ村の人々から大歓迎を受けました。そして、清掃登山に影響され、村人達があつまり村の一斉清掃を始めました。私の行 なった行動が、地元の人たちに対して少しでも良い影響を与えることができたことを大変嬉しく思っています。今回も清掃登山を実施しましたが、10年前に比 べ格段ゴミが減っていました。

一人ひとりが出来る事を実践する事が大切だと思います。そして、ゴミの排出量を削減する事は、循環型社会づくりに不可欠であるばかりでなく、ゴミを減らすことは地球の温暖化防止にもつながるものであると私は考えています。

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コイララ首相との会談及びアジア太平洋水サミット

先ほど、コイララ首相にも会わせて頂き今回の清掃登山の報告及び、エベレストが抱える環境問題や私の目から見たネパールの環境問題について意見交換をさせて頂きました。

その際、私が運営委員を務めている、「第1回アジア・太平洋水サミット」への出席を依頼するとともに、サミットでは現在ネパールやブータン等が抱えている氷河湖問題をサミットの議題として取り上げ議論をしたい旨、お伝えをさせて頂きました。

この「第1回アジア・太平洋水サミット」は、昨年3月21日に橋本龍太郎元総理がメキシコで行なわれた第4回世界水フォーラムで発案をされました。 橋本元総理は残念ながら昨年の7月にご逝去されましたが、ネパールを第二の故郷と愛されていた元総理の発案に私も賛同をし委員を務めさせて頂きました。サ ミットは本年12月3日・4日に、森元総理を運営委員長として日本の大分県にて開催される予定です。詳しくは、お手元の資料をご覧下さい。

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昨今の状況

さて、昨今、世界各地で異常気象が発生しております。ここネパール・カトマンズでは1944年1月以来63年ぶりに降雪があったのは皆さんの記憶にも新しいことだと思います。

私が登頂を目指したエベレストベースキャンプでも雨が降っていました。降るはずのない場所で雪が降り、降るはずの場所で雪が降らない。このような事は私の母国、日本でもおきています。例えば、東京で初雪が見られるのは早ければ12月頃です。

しかし今年は3月中旬まで雪が降りませんでした。また、寒くなったかと思えば、4月には真夏日(30℃以上)を経験しました。2003年フランスでは猛暑のあまり1万人以上もの死者を出し、他のEU諸国でも千人を超す犠牲者をだしました。

2004年にはインド洋大津波等がおこり、2005年アメリカではハリケーンカトリーナ等の被害もありました。そして2006年にはオーストラリア での大干ばつ等もありました。このように、世界各地で起こっている異常気象ですが、過去最大・過去最高気温等、記録更新が毎年繰り返されております。もは や異常が異常ではない時代が来ているのです。そして、この異常気象の原因の一つとして近年、地球温暖化の影響がとりだたされはじめました。

私が、生まれる前年1972年「成長の限界」と題された「人類危機レポート」がローマクラブから発表されました。レポートでは今後起こりうるであろう危機を下記のように例えました。

「ある池に蓮が生えている。この蓮は一日で2倍に成長する。30日たつと池を全て覆い、池の魚は全滅してしまうのだが、29日目にはまだ水面が半分は残っ ているから安心だと構えている。実のところ、魚の命はあと一日しかない。人類も既に29日目を迎えているかもしれないのである。」

環境問題は目に見えて結果が出るものではありません。今日やったからといって、明日顕著に結果が出るわけでもありません。しかし、我々は自分の子や孫の世代まで責任を持たなければならない義務があります。

 

氷河湖に関して

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UNDP及びICIMODの報告では2001年当時の記録としてネパールには現在3,252の氷河と2,323の氷河湖があり、5年から10年の間に20以上の氷河湖が決壊の恐れがあると報告しています。

その中でもツォーロルパ・イムジャ・ローワーバルン・ツラギの4氷河湖が特に決壊の危険性があると報告をしております。氷河湖は決壊をすると、洪水 が起こり多数の死者を出す恐れがあるのです。氷河の融解が加速している背景にはこのような地球温暖化の影響をヒマラヤ山脈も受けている証拠なのです。

報道機関によれば2035年には氷河が無くなる恐れがあるとも報告しています。氷河が無くなれば、その溶け水によって供給されていた水資源も枯渇す る恐れがあり、漁場や野生生物そしてネパールの国民の飲料水の供給も危機にさらされる恐れがあるのです。そして、ヒマラヤの雪解け水の減少及び枯渇はネ パールの国民のみならず、下流国にも影響を及ぼすのです。自然災害は何時発生するかわかりません。そして、地震等の突発的な自然災害により、氷河湖の決壊 等、二次災害を引き起こす可能性も秘めているのです。

先日のベルギー・ブリュッセルで行なわれたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第二作業部会においても、「氷河湖の増加と拡大」が問題視されておりました。

それを受け私はイムジャ氷河を訪れました。このイムジャ(IMJA)氷河湖は湖面標高5010mのエベレスト南方にあります。イムジャ氷河末端に灰色の水 溜まりが拡大し始めたのは1960年頃。現在長さ1km以上、深さ90mにも達し、2800万トンの水を湛えるまでに成長しているのです。もしこの氷河湖 が決壊すれば、チュクン村・ディンボチェ村・パンボチェ村、タンボチェ村などが大打撃を受けると予想されます。村人、そしてトレッカーを含めればその犠牲 は計り知れません。実際にイムジャ氷河湖に向かう道中で村のシェルパ達が「イムジャ氷河湖はどうなるのか?もし決壊すれば私達は全てを失う。

ヒマラヤの他の地方で氷河湖が壊れ、村々が洪水に流されたと聞いたことがある。ここは大丈夫だろうか?」と何度も聞かれました。それだけ地元民にとって氷河湖の決壊は恐怖なのです。

ヨーロッパアルプスでは、堰堤(えんてい)を設けたり、トンネルを掘って排水していますが、ヒマラヤはヨーロッパに比べ岩盤が軟らかく、また標高が高いので工事も困難なため、これらの対策が容易に実施できるとは限りません。

また、いくつかの氷河湖では警報装置の設置をしていますが、ネパールにおける警報装置はあくまでも応急対応であってこれは恒久的な対応ではありません。

ネパール政府は2005年1月に神戸で開かれた国連防災会議において宣言された「兵庫宣言」に基づいて、国際機関等と早急に協議し、この危機的状況を回避すべきであると私は考えます。(兵庫宣言の全容は別紙をご覧下さい)

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提言

アジア・太平洋地域では、洪水等の水関連災害による2001-2005年の年間平均死者数は約6万人で、これは世界の水関連災害死者数の80%にもなります。

アジア・太平洋地域がいかに水災害の被害を受けやすいかを物語っています。ネパール政府は、アジア・太平洋水サミットにて、この氷河の融解及び氷河 湖問題について、現状を訴えると共に、現在ネパール国民が置かれている深刻な立場をADB(アジア開発銀行)・JBIC(国際協力銀行)・JICA(国際 協力機構)等の援助機関と早急に協議し連携を取りながら、この危機的状況を回避すべきであると私は考えます。

オセアニア地方にあるツバルは地球温暖化の影響による海面上昇を訴え、各国の注目を浴び支援を求めました。ヒマラヤ山脈は人間に例えると頭です。その頭が狂えば世界中がおかしくなる可能性を秘めています。

だからこそ、ネパール政府は来年度からはじまる「京都議定書の約束期間(2008年~2012年」及び、2013年度からのネクスト京都議定書に向 けて、排出権取引等による各国誘致や企業等の投資を積極的に行なえる環境整備を行なうと共に、安定した供給が得られるシステムを構築する必要があるのでは ないでしょうか。

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