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地球温暖化 , 氷河湖・水環境

ツバル・大潮による塩害

地球温暖化 , 氷河湖・水環境

2008/03/11

ツバル・大潮による塩害

 毎年この時期になるとツバルの人々を悩ますのが、大潮による塩害だ。この日も午後4時半過ぎから至る所で地面から水が湧き出す。舐めてみると塩味。海水であることが分かる。ツバルはサンゴ礁の上に砂が堆積してできた島だ。つまり地下のサンゴがまるでスポンジのような役割を果たし海水を浸み込ませそして吸い上げ地面から噴き出すのだ。そしてその海水がツバルの主食であったタロイモやバナナ畑などに流れ塩害の被害を引き起こす。また、数十年前まで地下水をくみ上げて生活していた井戸も塩水が交じってしまい首都フナフティでは全滅。飲み水は雨水を溜めるか、海水を淡水化する装置で淡水にするかしかない。したがっていつでも水不足であり特に乾季となるとなおさらだ。水も食べ物もない所では多くの食糧を海外に依存しなければ人々は生きていけない。したがって首都フナフティの食料自給率は4割前後と極めて低い。

 地元の人々によると、年々進む海面上昇に伴い大潮の被害が拡大しているとのこと。今日は首都フナフティの中心部にある集会場前の広場で大潮の撮影を行った。午後4時過ぎ、その広場では若者たちがバレーボールを楽しんでいた。とてものんびりした雰囲気でこれから大潮による洪水が起こるとは想像もつかない。待つこと30分、地面からジワリジワリと海水が湧き出し始める。場所によってはよく公園にある水飲み場の、ひねったら水が「ピュー」と噴き出る、あれと同じように勢いよく海水が地面から噴いていた。音を立てることもなく「あれよあれよ」と一時間もたたないうちにあたりはすっかり海水によって水浸し、大げさに表現すれば洪水現場となっていた。バレーボールで遊んでいた少年たちもいつしか解散、「もう少し遊びたかったなぁ~」と帰った。

大潮が湧きだし水びだしになった会場前

大潮が湧きだし水びだしになった会場前

大潮が噴き出す前の広場

大潮が噴き出す前の広場

 地面から海水が湧き出すために、仮に海岸に堤防を作ったところで塩害から畑や井戸を守ることができない。ツバルのような環礁諸国にとって、地下水は唯一の水源といっても過言ではない。しかし、その地下水がすでに塩化してしまった。またツバルには川など一本も存在しない。したがって生活水の大半を雨水に頼っているが、太平洋エリアにおける降水量に関しての調査結果によればツバルの位置する南側は従来に比べ降水量が減り乾燥してきているとの指摘もなされている。

ツバル・大潮による塩害犬も洪水に怯えている?

ツバル・大潮による塩害で犬も洪水に怯えている

 2002年にアフガニスタンの難民キャンプを取材した事があったが、戦争難民よりも干ばつのために水を求めた環境難民の方が多かった。印象的だったのが「我々はずっと昔から戦争を繰り返してきた。ソ連の後はタリバンで今はアメリカだ。その度に難民になっていたらきりがない。私たちが怖いのは戦争よりも水が無くなることだ。地雷ならば失うのは片足かもしれないが、水が無くなれば死ぬしかないんだよ」と語ってくれた長老の言葉だった。水を失えば生きていけない。確かにその通りだ。

もうすでに地下水が塩化し使われなくなった井戸

もうすでに地下水が塩化し使われなくなった井戸

 このアフガニスタンでの出来事を思い出しながら、ツバルは海面上昇で国土が水没する前に、食糧供給、また公衆衛生の面において、また前回のレポートにも報告しているごみの問題などを含め居住不可能な国になるのではないかと感じていた。

このように勢いよく大潮が噴き出している処もある

このように勢いよく大潮が噴き出している処もある

 ヒマラヤの氷河湖の決壊時の大洪水と異なりポコポコと泡を出しながら大潮の海水が静かに湧き出していたが、この静けさゆえに私はゾクッとする恐怖を感じていた。じわりじわりと音を立てることなく、しかし確実に土地を殺しながら進んでいる高潮。そして気がついた時にはすでに末期症状なのかもしれない。かつてチンギスハーンは侵略したその土地に大量の塩を巻き100年以上はその土地で人々が生活できなくしたとどこかの書物で読んだことがある。まさしくそれと同じような悲劇がツバルで起きている。

ポコポコと湧く大潮

ポコポコと湧く大潮

タロイモ畑も塩害によって枯れ始めている

タロイモ畑も塩害によって枯れ始めている

(前回のレポートの「ごみに埋まるツバル」に写真を追加しましたのでご覧ください。)

3月9日 ツバルにて(三日目) 野口健

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