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異常事態のエベレスト

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2008/04/04

異常事態のエベレスト

 ネパール・カトマンズ入り。ネパールは二ヵ月ぶり。年末年始も清掃キャラバンに氷河湖の調査を行っていましたが、今回もその続きです。先月はツバル、そしてフィリピンでの遺骨調査、そしてこのチベット動乱によるコメントによる騒ぎ、色々とありました。

 「チベット動乱~北京五輪参加への条件~」(野口健ブログ)にて私が個人的に感じていたチベットに対する思いを述べさせて頂きましたが、あくまでも私の心情であり、人様に対して押しつけたりするものではありません。あくまでも一登山家の意見として受け取って頂ければと思います。

 チベット問題は極めてデリケートであるわけで、寄稿すれば賛否両論、物議を交わす事は分かっていました。寄稿してから200件を超える様々なメッセージが私に届けられました。正直、メッセージを拝読しながら「大丈夫かなぁ~」と心配になることもないわけではなかったですが、特に慣れてない日本語でありながらも、おそらく大陸の方であろうと思われる方々(勿論、内地の方も含まれる)のメッセージにはしかと目を通させて頂きました。
 
 あくまでも日本語の読解力の問題かもしれませんが、私は「北京オリンピックにボイコットせよ!」とは一言も発したつもりはありません。「このまま中国による非人道的な行為が繰り返されるのならば、最終手段としてボイコットもその選択肢に含まれるのも、またやむを得ない」と表現しオリンピック参加には条件が必要だと指摘させて頂きました。その指摘について多くのご意見を賜りましたが、私の考え方に一切の変化はございません。
 
 ネパール入りしてみて驚いたのがエベレストに関わらず他の山を含めチベット側から登山を予定し、すでに中国側に入山料金を支払っていたにも関わらず全ての登山隊がいまだにチベット入りの許可がでていないとのこと。登山隊に限らずトレッキング、ラサ観光など全て禁止されている。そして支払った入山料金もいまだに返還されていないとのこと。
 聖火リレーがチベットで行われればさらなる動乱が起こる可能性がある。その事態を想定してか、外国人をチベットに近づけない。そして徹底した報道規制。それが何を意味するのか、何故なのか、想像して頂きたい。

 さらに驚いたのが中国隊は5月10日までに聖火をチベット側からエベレストの山頂に上げると発表しているが、エベレストのネパール側にも中国の影響がおよび中国隊の聖火隊が登頂するまではネパール側も登山が規制(ネパール観光省の発表によると5月10日までエベレストのキャンプ2(6400M)までしか登ってはならない、そして衛星通信も使用禁止とのこと)されるとのこと。中国の要請によりネパール軍の兵士がエベレストの6400Mまで上がり登山隊を監視するとのこと。あくまでもネパール領でありながらも、ネパール山岳関係者によると中国政府の圧力にネパール政府は逆らえないとのこと。そして中国大使館に呼ばれてチベット人の暴れている様子を撮影したビデオを何度も見せられ、いかにチベット人が野蛮かと訴えていたそうです。

 私は心底不思議でならない。聖火をエベレストの山頂に上げるために世界中の登山隊、また観光客などの外国人をチベットから遠ざける中国政府ですが、そこまで強行して仮にエベレストの山頂に聖火が上がったとしても世界は誰も評価しないだろうし、それどころか中国の傲慢さのほうが遥かに大きくクローズアップされるだろうに。

 国際社会が中国に対して注文をつけているのはけっして特別な事ではなく、ごくごく当たり前の事です。近年のオリンピックでこれほど報道規制があった国があっただろうか?観光客など外国人が追放された事があっただろうか?これほど血が流された事があっただろうか?そしてオリンピック開催によって新たな血が流れるかもしれない。国際的な調査団を派遣するべきだと指摘したのはオリンピック後のチベットが辿るであろう運命に危機を感じているからだ。

 私は中国政府に対して一方的に批判をしているつもりは毛頭ない。頑なにオリンピックをボイコットせよ!とも発言していない。ただ、このオリンピックが心配でならない。ボイコットは非現実的であろうし、また中国が国際社会から孤立するだけかもしれない。しかしだからといって無条件に参加して本当にいいのだろうか?確かにチベット含め中国の人権問題は極めて厄介です。中国との摩擦は経済的にも大きなダメージとなるでしょう。触れない方が安易に決まっている。しかし、日本を含め国際社会が中国でのオリンピック開催を決めたわけで、その責任から逃れることはできない。

 感情論に任せて意見するのは確かに爽快かもしれない。私の意見に賛同してくださった方々のメッセージの中にも大きく偏ったものが含まれていました。私はこれでも必死に感情を抑えつつメッセージを発しているつもりです。このブログ内含め冷静な議論を願っています。

2008年4月3日 ネパール・カトマンズにて 野口健

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