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2008年エベレスト清掃登山 , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

動く島・ハティア ~バングラディシュ 洪水と共に生きる人々~

2008年エベレスト清掃登山 , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

2008/05/23

動く島・ハティア ~バングラディシュ 洪水と共に生きる人々~

(写真はクリックしたら大きくなります)

 世界最高峰エベレストからの旅はもう間もなく終了する。最終目的地はベンガル湾に浮かぶハティア島。ハティア島はバングラディシュの西から流れてくるガンジス川と北から流れてくるブラフマプトラ川が合流し、さらにそこに東方面から流れてくるメグナ川が合流しベンガル湾に抜けた場所に位置する。そのおかげでハティア島は大河からの激流がダイレクトにぶつかり激しい海岸浸食に襲われ続けている。大河といってもなんら地理的な知識を持たなければ海と勘違いするほど広い。

ハティア


ハティア島の大きさは南北の長さが20キロ、東西の幅は5キロの細長い島であるが、それでもバングラディシュでは二番目に大きな島であり、そして驚いた事にこのサイズの島にして、人口がなんと40万人弱とのこと。チャータした漁船に(かなりオンボロでいわゆるポンポン船?北朝鮮からの脱北者が使用しているあの船と同レベル)に揺られ、ハティア島の北部にあるハニル湾から上陸した。「湾」といってもかつての港で今では海岸浸食によって港は跡形もなくなっている。我々がチャータした小型船は強引に着岸できるが、大型船は浸食作用によって使用できなくなった(大型船は中西部のトモルディン港を使用)。

ハティア


二度目のバングラディシュ訪問だが前回同様に気がつけば目の前は360度の人、人、人の壁に囲まれる。これだけの人が一体どこからやってきたのか不思議になってしまうほど人集まる。そして目が合うとニコニコと笑う。最初こそ恐怖感を覚えたものの、すぐに彼らの人懐っこい人相にふと安心する。盗難の危険は充分すぎるほどあるのだろうが生命の危険を感じた事はない。

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ガイドによればこのハティア島の北部ハニル湾の海岸が毎年平均して1キロほど浸食しているとのこと。ならば長さ20キロのハティア島は「おおよそ20年で消滅するのか」と質問をしたら、それがそうではないのだと言う。どういう事かと尋ねたら「島の北部の土砂が浸食により流され今度は島の南部に推積作用により流れた土砂が溜まり新たな河岸や島が誕生している」とのことだ。北部で家、土地を失った人々は優先してこの「新陸地」に移住できるとのこと。北部の土地がなくなり南部で新たな土地が誕生するので、まるでハティア島が「北」から「南」へと移動するかのようで現地では「ムービィング・アイランド」と呼ばれている。

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 ハニル湾の近く(15メートルほど手前)に店舗を構えるモハメッド・ラシェッドゥさん(28歳)に「河岸が目の前ですが心配じゃないですか?」と質問したら「心配がないいかって。目の前の河岸を見てごらんよ!毎年、600メートル以上は河岸が浸食しているさ。心配している暇なんかないよ。来年にはこの辺りはもう流されてないよ。いや、この夏にはもうないでしょ。13年前はここから8キロ先で商売していたんだ」と言って今や大河となっている方へ指を指した。そして「また引っ越すよ。もう場所は決めたんだ。来年はそっちに来てね」とこの男性には悲壮感など微塵もなかった。震災に慣れきってしまったのか、それとも覚悟を決めたのか。

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それからしばらく浸食されている海岸を歩いていたら一人釣りをしている女性がいた。名前はビルキスさん(32歳)。目が合ったので挨拶したら悲しげな眼で「2週間前までここに私の家がありました」と地面を指さした。確かにそこの地面はきれいに整地してあり所々に柱の跡の穴があった。彼女は2年前にここに引っ越して来たのだと言う。「どこから越して来たの」と聞けば「あっちのほう」とベンガル湾を指さした。

ハティア

侵食により家を失ったビルキスさん、32歳

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家の跡地。生活の跡がみてとれる

つまり二年前にも浸食により土地、家が流され避難し新たに家を構えたら再び浸食によって追われてしまったのだ。浸食される前に家を解体し再び内陸部に越したとのことだが、先の男性と違い悲しみに暮れている彼女に「ご主人は?」と立ち入った事を聞いてしまった。なんと悲しい事にビルキスさんのご主人は13年前に交通事故で亡くなっておられた。



 「旦那に先立たれ今は子ども二人と私の両親と生活していますが、私が一人で養っているようなものです。ただでさえ経済的に厳しい生活なのに、せっかく建てた家を再び失った。これから先どうやって生活していいのかもう分からない」と、そして「自宅の跡地が目の前にありますが、どのように感じますか?」と酷な質問に「とても悔しいし悲しい。でも誰にも言えないし、言う事に意味もない。誰が助けてくれるわけでもないでしょ。被害者は私だけではないし。それでも生きていかなければいけないし・・・でもどうやって・・・」と、そして彼女は一人夕日に染まるベンガル湾を呆然と眺めていた。その表情は、怒りをもすでに通り越し悲しみだけが支配していた。

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昨年、浸食が進むハティア北部に河岸の浸食を防ごうと部分的にコンクリートによる護岸工事を行ったとのことだが、一年後には完全に破壊され今では跡形もなく流されてしまった。温暖化によってヒマラヤの氷河はさらに融解しガンジス川の水量はさらに増え続けるだろうし、それ以上に深刻なのが温暖化によってさらにサイクロンがその勢力を拡大しそして多発することだろう。確かにサイクロン対策として高床式のサイクロン・シェルターなどの施設が増えサイクロンによるその時点での死傷者は減っている。

 1970年11月 サイクロンによる死者・行方不明者は500000人だったのが、1985年5月に10000人、1991年4月は140000人、そして2007年は4166人と波はあるものの全体的には減少傾向である。

 しかし、こうして「現場」に訪れてみれば多くの人々との出会いにその数字以外の世界を目にする。報告書などではけっして感じる事のできない現場の空気にさらされて改めて感じることは、先進国の発展の陰にこのように「一日一ドル以下」で生活している人々が我々のツケを支払わなければならない不合理さだ。そしてそんな彼らの多くは地球温暖化の原因を知らない。ヒマラヤの民同様に「神様へのお祈りが足りない。私たちの感謝の気持ちが少なくなっている」などと自分たちを責めているのだ。そんな姿を目にする度に申し訳ない気持ちで胸が押しつぶされそうになる。現場で感じたこの気持ちをしっかりと日本に持ち帰り伝えたい。

 「我々(先進国)が彼らを援助し助けてやる」などといった上から目線ではなく、私たち(先進国)はあくまでも加害者側であり、加害者として、その責任をどのように全うするのか、我々は肝に銘じなければならない。

バングラディユ・ダッカにて 野口健

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跡地で呆然とたたずみ、川をみつめるビルキスさん


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