産経新聞「直球&曲球」が掲載されました。
2022年9月15日掲載
「安倍氏がまいた種を育てるのは私たち」
先の参院選の最中、民衆の目の前で安倍晋三元首相がテロ事件によって暗殺され、日本中を震撼(しんかん)させた。日頃、政治に関心を持たない10代の娘までもショックのあまり涙を流し、「献花に行きたい」というので一緒に都内の自民党本部へ向かった。
その日は土砂降りの雨だったが、驚いたのは果てしない行列の長さだった。僕らは2時間ほどで献花台に花を手向けることができたが、振り返ってみたらその列はとどまることなくさらに延び、最終列は、はるかかなた。雨で衣服がずぶぬれになりながらも、列は途切れることもない。僕たちはこの光景にしばし立ち尽くし、手を合わせる人々の姿を眺めていた。
この光景、どこかで見たことがあるような...おぼろげな記憶がふと脳裏に浮かんだ。欧州に滞在していた中学生の頃、突然、現地のニュースが報じた「昭和天皇崩御」。子供ながらに衝撃的であった。わが家に天皇陛下のお写真が掲げられていたから、なおさらそう感じたのかもしれないが、胸に大きな穴が開いてしまったような喪失感。アスファルトを打つ雨の音とあの時に体験した記憶が混ざり合って、抑えていた感情があふれそうになり、思わず天を仰いだ。
安倍元首相に対する評価に賛否両論があることは知っている。しかし、それは戦後タブー視されてきた多くの課題に取り組んだ証(あかし)でもある。国家にとって必要ならば国民から厳しい批判にさらされても、やらなければならないのが政治だ。あの安保法制(平成27年成立)の時、大量に押し寄せるデモ隊に囲まれた国会議事堂の様子を眺めながら「安倍政権はいつまで持つのかな」「法案を取り下げるかな」と正直、感じた。しかし、安倍内閣は、ひるむことなく安保法制を成立させた。今日の国際情勢をかんがみれば安倍元首相の決断は正しかった。昭恵夫人は「(主人は)種をいっぱいまいているので、それが芽吹くことでしょう」と語ったが、そう願いたい。
ただし、芽吹き、大輪の花をつけるまでには、水や肥料を与えなければならない。そのことを、われわれは決して忘れてはならないだろう。
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