マナスル...
マナスルか...
4度目のマナスルとなるのかな。
まるで流れ星のように音もなくスッと消えてしまった淳くん。
淳くんと一緒にマナスルで「。」をつけようと誓いあっていたのに、まるでけいさんの後を追うかのようにあまりに呆気なく先に逝ってしまったね。
クレバスの中、薄れゆく意識の中、最後に何を思っていたんだい。
どんなに気をつけても時に人は山で死ぬ。「運命」だったと言う人もいる。しかし、命を運ぶと言っても人の努力で運べる運命もあれば、人の努力など砂漠の砂つぶのようにひと吹きで飛ばされてしまう、運命もある。運命とは時に理不尽で儚いもの。
淳くん、今回のは、どうだったんだ。お前さんの最後は本当にやむを得ない「運命」だったのかな。
その現場にいなかったから何もわからない...ただ、今となっては、何もかも全てが虚しく木霊するばかり。
しかし、淳、お前さん、さぞかし無念であったろうな。息子の成長もまだまだ見届けたかっただろうに。淳の無念さが日増しに僕にじわりじわりと浸透してくるのを感じている。クレバスの中、1人寂しい時間を過ごしたのかな。無念だ。
でも、あの「チリン」の音色は美しかった。まるで風鈴のように。あれは単にボタンの落ちた音ではなかったね。淳くんは僕に何かを伝えたかったんだね。
ただ、「弔い合戦」というのはどうしても「死」というものを大前提に捉えてしまう。それが時に歯車を狂わせ、負の連鎖へと繋がってしまう。死というのは、それだけ人を寄せ付け、時に人を飲み込むだけのエネルギーをもっている。
マナスルに向かうには弔い合戦という重箱から解放され「無」にならなければならない。情けない事にこの期に及んでも自分の状態がよく分からないんだ。今、果たしてその時なのかどうかも。ひょっとして、僕は淳くんと共に彷徨っているのかもしれない。
まずは、3週間、エベレスト街道でモンスーンの雨に打たれながら自身と向き合い集中。この3週間は大切。
薄い幕を一枚一枚、剥がしていかないとね。その先の一歩を求めて。
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