産経新聞に連載コラム「直球&曲球」が掲載されました。
産経新聞 2023年11月9日掲載
「祈るしかない中東紛争の沈静化」
発端はイスラム原理主義組織ハマスらによる凄惨極まりないテロによって、少なくとも1400人もの人命が奪われ、200人以上が人質としてガザに誘拐されたことだった。その報復として、イスラエルはハマスの壊滅を宣言してガザへの攻撃を激化させ、紛争は泥沼化しつつある。
パレスチナ問題が取り上げられる度に僕が思い出すことがある。父は元外交官で中東を専門にしていた。僕が小学生の頃、家族旅行でイスラエルを訪れることになったが、エジプト人の母は「イスラエルだけには行かない!」と、ものすごい剣幕(けんまく)でイスラエルへの怒りをあらわにした。結局、母抜きで出かけたが、タクシーの運転手が父に対して「アラブ人は憎い」としきりに語っているのを見て、「母ちゃん、来なくてよかったね」と話した記憶がある。
もともとはユダヤ人が住んでいた土地だが、ローマ帝国に国を滅ぼされ、世界各地へ散り散りに。各地で迫害を受け、極め付きがナチスによる大虐殺。第二次世界大戦後、英国や米国などが仲介役となってイスラエル建国へと向かう。ユダヤ人からすれば2000年ぶりに聖地を取り返したと思っただろうし、同時に二度と迫害はされまい、と心に誓ったに違いない。それ故に四方八方、敵に囲まれながらも戦い続け、中東戦争では全てに勝利した。その原動力は、国が滅び、世界をさまよい続け、迫害され続けた民族が持つ底知れぬ精神力や団結力なのだろう。
ただ、それは土地を奪われ、塀の中に閉じ込められたパレスチナ人から見れば同じことである。深刻なのは、国同士の戦争ならまだしも、武装勢力組織との戦いになると「落としどころ」を見つけ維持していくことが極めて困難なことだ。それはオスロ合意の失敗が証明している。
イスラム教徒ではなく、西洋的な教育を受けた母でさえイスラエルに対する厳しい感情を抱いていた。この紛争によってパレスチナ人だけではなく、アラブ諸国の対イスラエルへの憎悪がもはや「引き返せない」段階に入ったと感じる。紛争が中東全体に拡大しないことを祈るしかない。
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