前回、年末年始の一ヶ月間ほどヒマラヤに滞在していたがその間一度も雪が降らなかった。ヒマラヤで真冬に雪が降らないのだから東京で降るわけもない。しかし、私が帰国してからネパールの首都であるカトマンズでは60数年ぶりに雪が降ったとのこと。降るべき場所で雪が降らないかと思えば
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イムジャ氷河
本来降らない場所でいきなり雪が降り出す。日本でも3月に入ってから寒くなりだしたように地球全体が不安定なのだろう。私が滞在しているこのエベレスト街道の上部では今にも決壊しそうな氷河湖がある。氷河が急激に溶け出し流れ出した水が溜まり氷河湖が誕生するのだが、今その氷河湖がネパール各地で洪水を引き起こしている。アイランドピーク近くのイムジャ氷河湖が融解し決壊する危険性があるとネパール山岳協会のアンツェリン会長が心配していた。
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イムジャ氷河湖から溶け出し流れ出る水


1962年にはイムジャ氷河湖はなくそこには氷河があった。しかし、それから徐々に解け始め氷河湖が誕生。2001年には0.8平方キロメートルだった氷河湖が今年には1平方キロメートルに肥大。水深200mほどだとも言われている。もし融解し溜まっている大量の水が流れ出せばチュクン村・ディンボチェ村・パンボチェ村、タンボチェ村などは跡形もなく流されてしまうだろうとの事。村人、そしてトレッカーを含めればその犠牲は想像しただけでもゾッとする。3月29日に、実際にそのイムジャ氷河湖に訪れてみたが、その大きさにみな唖然。一見凍って見える氷河湖は実は凍っているのは表面のみ。夏になればさらに湖水の水位が上がるとのこと。
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イムジャ氷河湖

新聞(読売新聞)の報道によると、来月2日からブリュッセルで始まる会合で採択予定の国連「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第2作業部会報告書のうち、地球温暖化によるアジアへの影響を詳述した報告内容が28日、明らかになったとのこと。「天然のダム」の役割を果たしている氷河の融解が加速し、その雪解け水に7億人以上の生活が脅かされると警告した。現状の速度で融解が進むと、ヒマラヤの氷河は2035年までにほぼ消滅するとも指摘している。


まずやらなければならないのは緊急処置として決壊しそうなその氷河湖の横に穴をあけ少しずつ水を流すことだろう。しかし水を抜くだけでは地球温暖化の加速が収まらないかぎり再び水が溜まりだす。同じことの繰り返しだ。1998年にヒマラヤのロールワリング地方のチョロルパ氷河湖でも決壊しそうになり穴をあけ水を流し6メートルの水面ダウン。それでも2001年には0.3平方キロメートルであったのが今では約1平方キロメートル。水を抜いても確実に氷河湖は拡大し続けている。国際社会が真剣に温暖化対策を強化しない限り氷河を始め世界中が絶望的な状況になる。
 
中国などの新興国の発展で世界のエネルギー需要は2030年には今の1・5倍になる。地球温暖化のA級戦犯である温室効果ガス対策は原発抜きで果たして解決することが出来るのだろうか。02年から一年間、東京電力の原発17基が原発点検の不正が発覚したため、すべて停止し、その分を火力発電で補った。その結果なんと4200万トンものCO2を排出。日本は1990年の水準からCO2排出量を6パーセント削減することを国際的に公約しているが、4200万トンという量は1990年水準の3・4パーセントにも達する。京都議定書では、先進国の支援で途上国が原発を建ててもCO2の排出量を減らしたとは認められない。現段階では原発が温暖化対策として「公認」されていないが、安全性、核拡散への懸念を乗り越えた上で改めて「地球温暖化」と「原子力発電」の関係について議論する必要があるだろう。

ヒマラヤは人間にとっての頭だ。その頭がおかしくなれば体全体がおかしくなる。ヒマラヤの異変は地球全体の異変でもある。この度のエベレスト・富士山同時清掃登山、山頂アタックが無事に終了したら、次のテーマとして融解した氷河湖対策に取り組みたい。
4月2日 カトマンズにて

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