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アジア・太平洋水サミット , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

白川義員氏の「世界百名瀑」に感じたもの

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2007/08/23

白川義員氏の「世界百名瀑」に感じたもの


白川義員作品集「世界百名瀑」(小学館)

 エジプトはナイルの賜物。アジアに生まれた黄河・メソポタミア文明もいずれも水が生んだものでした。水は生命の源であり、そもそも我々は母親の胎 内で水に浮かび、生命は海から陸に上がり、なればこそ水の機嫌を損ねれば文明は滅びる。水は尽きることなき資源であると思われがちであるがそうではない。 我々は水なくして生きていくことは出来ない。しかし人間を通過した水は汚れ自然を脅かし警告を促しながら過ぎ去っていく。それはいずれ我々に戻ってくる破 壊への序章に過ぎない。地球上にいる全人類が繁栄し続けるには、資源としての水、尊厳ある人生を全うするための水、そして人間の叡知を活用すべき場として の水について問題意識を分かち合い、知恵を絞り、そして具体的行動を起こさなければなりません。『持続的開発の世界サミット』の機会に前国連事務総長であ るコフィ・アナン氏が水を重要課題の一つに揚げられたことは素晴らしい事であったと私は思う。


事務所にて

 第一巻の冒頭、アナン事務総長のお言葉が出てきたのには感銘を受けました。滝には幾つもの顔がある。乾季や雨季、朝や夜で違った顔をする自然の面 白さは何時見ても楽しい。白川さんの写真には音と匂いがあるように感じられる。それだけダイナミックなものが多いという事なのだろう。写真を見て音を想像 し水飛沫が風に乗せられてほのかに漂う水の香りを連想させる。これだけ心魅せられる写真集には滅多に出会うことがない。1994年、私が南極大陸最高峰の ビンソン・マシフ(4897m)に挑戦する年、白川さんの有楽町で開催された「南極大陸」展示会に足を運んだ事があった。白川さんは覚えていらっしゃらな いかもしれないが、それが僕の中での白川さんとの初めての出会いだった。しかし最初の出会いは緊張のあまり一瞬で滝つぼに落とされてしまったといった感じ でした。それ以来、世界百名山等、写真集が出るたびに心動かされてきました。此の度の「世界百名爆」が出るにあたり、御紹介文を書かせて頂ける名誉を頂 き、これほど光栄なことはありません。次にお会いしたときは、直には流されず、ゆっくり会話を楽しみながら滝つぼへと飛び込みたい。

1994年、南極大陸最高峰のビンソン・マシフ(4897m)の頂上にて

 さて、近年地球温暖化という言葉を耳にしない人はいないのではないでしょうか。これは私が登頂したエベレストのような高地でも温暖化による変化が 顕著に現れるようになってきました。今、ヒマラヤでは、5000mを越える地で氷河が驚くほどのスピードで後退をしています。そしてその氷河の融解により できた湖(氷河湖)が決壊し治水の準備のない下流の村々に洪水で被害を及ぼしているのです。その上、このままのスピードで氷河の後退が進めば2035年に は氷河が無くなるとの調査結果も出ています。ヨーロッパ・アルプスでも同様に氷河の急速な後退という現象が起きていますが、一代の人間の生という、自然界 にあっては比較的短い時間のうちにこうしたことが厳然と起きていることの意味を、科学者も、消費者も、生産者も、政治家も考えるべき時が来ていると私は思 います。

イムジャ氷河湖:温暖化の影響により氷河が融解してその水量は年々増え、決壊が懸念されている。

 その様な観点から私は本年、自身が運営委員を務めているアジア・太平洋水サミット(本年12月3日・4日大分県にて開催)において、温暖化による 氷河の融解および、融解により及ぼす影響を上流国から下流国まで一つの問題としてとらえて考えたいと思っております。水のサミットですから、白川さんが見 てこられた世界中の滝についても色々とお話を伺いたいと思っております。会場で白川さんの写真を飾る事ができれば、議論とは違った意味での「水」を世界中 の出席者に見ていただける機会が出来れば良いですね。50年後も100年後も今と変わりない滝の素顔を見る事の出来る世の中を我々は作っていかなくてはな りません。白川さんの作品は、作品としての粋を越え立派な資料として後世に残るものです。それだけの価値がある写真集に出会えた事を大変嬉しく思います し、是非皆さんにも「音」を「香り」を感じて頂きたいと思います。

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