アジア・太平洋水サミット , 地球温暖化 , 氷河湖・水環境

2007/11/28

アジア・太平洋水サミットに向けて

今年は10年越しの夢だったチベット側からのエベレストに登頂することができた。だが、私にとってそれ以上の山場が、12月3日、4日に行なわれようとしている。それは、大分で行なわれる第1回アジア・太平洋水サミットだ。

  世界の水関連災害による死者の80パーセントは、アジア・太平洋地域が占める。水サミットは、各国の元首級を招待し、この問題の解決策を探ろうというものだ。   

 運営委員の私は、ここで氷河湖問題を取り上げるつもりだ。毎年赴いているヒマラヤでは、地球温暖化の影響で氷河の融解が加速している。エベレスト挑戦前に訪れたネパールのイムジャ氷河湖も1960年ごろから拡大し、2800万トンの水を貯えるところまで拡大してしまった。もしこの氷河湖が決壊すれば、下流の村々に大被害を与えることになる。

  実際、イムジャ氷河湖に向かう道中で、村のシェルパ達からは
「イムジャ氷河湖はどうなるのか?もし決壊すれば私達は全てを失う。ヒマラヤの他の地方で氷河湖が壊れ、村々が洪水に流されたと聞いたことがある。ここは大丈夫だろうか?」と何度も聞かれた。

  首都カトマンズへ下り、私が第1回アジア・太平洋水サミットへの参加をコイララ首相にお願いすると、首相もすでにこの問題の深刻さに気がついていた。
「ネパールの氷河問題等は深刻であり、今後更なる水災害等により、ネパール国内だけでなく他の流域国まで被害を引き起こす可能性がある」

  そう、この氷河問題は地元山岳民族の問題だけではない国際的な環境問題なのだ。この半年間、私は首相のその言葉を、身をもって体感することになった。

 まず、7月に訪れた下流国のバングラデシュで私は現実を見せつけられた。トンギバリ市のハシャリ村では、川岸が一年前より約250~300mぐらい浸食し、150軒の商店が流されたと村人たちに訴えられた。浸食が見られだしたのは1994年ごろからで削られるスピードは年々速くなっているという。このため川岸の店や家は、次々と移動を余技なくされているようだ。
「今、ヒマラヤ地域では氷河の融解が進み、大量の水が流れ出している事を知っているか?」
と、尋ねると、
「この気候ではヒマラヤ地域の氷が解ける事は予想の範疇だ。しかし我々にはどうしようもない・・・。」
と現地の人は半ば諦め顔だった。

  その後、ラフマン水資源担当大臣と直接お会いさせて頂いた。大臣の執務室に通され約一時間お話をさせていただいたが、バングラデシュの抱えている問題は私が滞在期間中に目の当たりにしてきた状況を遥かにしのぐ悲惨なものに思えた。顧問いわく、バングラデシュには現在140本ほどの河川があるが、バングラデシュ独自の川は一本も無い。全てネパールやインド、ブータン等から流れてくるもので、国内では川のコントロールが出来ないと嘆く。乾季には上流国のインドのダムで水を堰き止められ水が干上がり、雨季には大量の水が放出されいたるところで洪水が起こる。自国だけでは解決しようのない環境問題が、そこにはあった。
最後に大臣から、第1回アジア・太平洋水サミットでは、上流国と下流国の議論の場を持たせて欲しいと陳情を受けた。

  こうなれば、何が何でも上流国のインドにも水サミットに参加してもらい、ヒマラヤ地域の氷河の融解問題ついて話し合う必要があるだろう。

 モチベーションが上がるとともに、運もあがったのかもしれない。翌8月には、訪日していたインドのソズ水資源大臣と直接会談をする機会を得たのだ。インド人特有なのか?初めてお会いしたにもかかわらず気さくに語りかけてくれた大臣には非常に親近感がわいた。
第1回アジア・太平洋水サミットにおいてヒマラヤ地域の氷河の融解が及ぼす影響を上流ネパール、中流インド、下流バングラデシュの3ヶ国で話し合うことを提案すると
「それは非常に面白い提案!! 健の案にブータンを付け加え4カ国での開催も面白い」とご教授を受けた。

  その後、大臣がしきりに訴えたのは、研究者が研究発表したシュミレーション結果をただ手をくわえて見ているだけではなく、活動家は気候変動に対して手を打つための行動が必要だということ。
 
  大臣のアドバイスに励まされ、私はブータンに飛ぶことになる。研究室が似合わない私は、やはり現場で行動している方が性にあっているようだ。

 10月には、外務省やJICAの方々に多大なご協力を頂き、ブータン王国のキンザン・ドルジ首相と会談する約束を得ることができた。政治家でも学者でもない私が、第1回アジア・太平洋水サミットへの招待のために、入国の困難なブータン王国まで首相に会いに行くのだから、自分の能力を遥かに超えた仕事だった。

  実際、飛行機のチケットが取れないという庶民的な問題に、私達は出発直前まで追われていた。大物政治家ならこんなところでエネルギーは使わないだろう。紆余曲折後の10月16日、私はブータン王国国会議事堂の迎賓室にいた。キンザン・ドルジ首相は、ヒマラヤの国の首相らしく、落ち着いた穏やかな顔をしていた。そして、驚くべきことに、私の環境活動を細かくご存知であった。

  首相は、1994年10月7日にルゲ・ツォ氷河湖の決壊により下流のプナカが大被害を受けたことをまずお話しされた。

 しかし従来は、ヒマラヤ地域の豊富な水により大きな恩恵を受けてきたようだ。首相は、水力発電により国のすべての電力をまかなっていることを特に強調していた。水力で発電した余剰電気は隣国のインドに売っており、その額は国家予算の大よそ6割にあたるという。また、ネパールのように暖を取るために木を使わないため、国土の72%が森林であるそうだ。
首相のお話をお聞きし、水力発電が、ブータン王国の経済と環境にとって非常に重要な役割を担っているということを実感できた。

  だが、この合理的なシステムも地球温暖化の影響で維持が難しくなっているようだ。
国家環境委員会副大臣のナド・リンチェン氏によると、氷河湖の決壊が続けば、水力発電所に大量の土砂などが流れ込み、機能しなくなってしまうそうだ。つまり氷河湖の崩壊は、直接的な被害だけでなく、国全体のエネルギーと経済の問題にも関わっているのだ。
リンチェン氏は、こう続けた。
「氷河がなくなれば深刻な水不足にもなる。地球温暖化はブータン王国にとっても存亡の危機です」

 日本にいるとよく「地球温暖化」といった言葉は耳にするが、実際に身の危険を直接的に感じることが少ない。いや、まったく感じない人の方が多いだろう。しかし、ヒマラヤ以南の国々にとって地球温暖化は、危機迫る問題だ。第1回アジア・太平洋水サミットに向けて忙しく飛び回ったが、やはり現場に来ないと見えてこないものがある。

  大きな問題の前で、自分の力は非常に小さく感じることもある。それでも短い期間に4カ国全ての首相や担当大臣と会談を行えたこと、これは第1回アジア・太平洋水サミットに向けて大きな意味を持つだろう。この原稿を書いている現在、参加者リストは最終調整中だ。第1回アジア・太平洋水サミットを、氷河融解問題解決の第一プロセスとしたい。

 そして、日本の人々にも、この第1回アジア・太平洋水サミットを通して地球温暖化の実態を少しでも知ってもらいたい。会議の模様はさまざまなメディアで紹介される。これを機に家族で地球温暖化について話して頂ければ幸いだ。

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