フーガオン村(4100M)からベースキャンプに向けて出発。ベースキャンプ(5200M)まで一気に標高を上げるとキツイので中間にあるカルカ(4500M)で一泊。(カルカとはヤクの放牧などに使われる無人小屋)。
その翌日にBC入り。フーガオン村もなかなかの雰囲気でもっとじっくり撮りたかったけれど、サリブン峰から下山したらゆっくりと撮影しよう。今はサリブン峰登山に集中しよう。
中間にあるカルカに到着し、ロバから荷物を下ろしテントを立てお茶を沸かし、ホッと一息入れリラックスしたその瞬間にテントの表にいたシェルパが「ロバが逃げた!」との叫び声。「えっ!ロバが逃げた!」とアンビリーバボー。慌ててテントから飛び出したら反対側の尾根に9頭のロバが歩いて山を下っているではないか。
反対側の尾根に行には我々がいる場所から一回下り川を渡ってから反対側の尾根に登らなければならない。いつの間に・・・。ロバ使いがシェルパのテントの中でカードゲームに熱中している間に逃げ出していたのだ。ポーターに逃げられ、今度はロバに逃げられ、いやはや、なんて間抜けな隊なんだ。ロバ使いは「ハッタリカ!(チクショウ)」と捨て台詞を吐いたと同時にロバの方へダッシュ。しかし、かなり距離が離れているので果たして追いつくのだろうかとハラハラドキドキ。ロバに見捨てられたらそれこそ我が隊は途方にくれるしかない。進むことも撤退することも出来ないわけで。
約2時間後、9頭のロバと共にロバ使いが帰ってくる姿を見て歓声が上がる。ロバ使いの話ではロバにとって4000Mを超える標高は寒いとのこと。ヤクなら問題のない標高でも毛の短いロバには堪えるのだ。それを聞いたらロバさん達が可愛そうで。またロバの悲しげな瞳。「明日はベースキャンプ。もう一日頑張ってくれたら暖かい所に下れるからね」と声をかけておいたが伝わったかどうか。
そういえばスコット隊が南極点を目指した時に馬を使用したが、寒さで馬が身動き取れなくなりそして馬の多くが死んでいったとか。それに比べアムンゼン隊は犬を使用。それらの結果、アムンゼン隊が世界初南極点到達に成功したがスコット隊は遭難し全滅。学生時代に読んだ「世界最悪の旅」という本を思い出していた。ただ「南極とヒマラヤは違うから」と自身に言い聞かせていた。
4月27日。いよいよベースキャンプへ。午前中は晴天であったのに午後から雲行きが怪しくなり、あっという間に雪にそして吹雪に。ベースキャンプ手前約1時間の地点で雪が深くなり「これ以上先はロバには無理」との事でベースキャンプ1時間手前を我が隊のベースキャンプにした。これでロバの諸君はサリブン登山が終了するまではフーガオン村で待機。本当にお疲れ様でした。風邪をひかなければいいのだが。
我が隊に何度かサリブン峰に登ったことがあるシェルパがいるが、彼がしきりに「ベースキャンプ手前に雪があるのは初めて。今年は雪が多い」とブツブツ。確かにキャラバンを開始して約3週間。この3週間、どれだけ雨に降られてきたことか。上部になれば雨が雪になるわけで。「とにかく雪崩には気をつけよう」と皆で話し合った。明日は上部キャンプ付近までの偵察。ベースキャンプから上の雪の状況を確認しなければ。焦らずジックリと様子を見ながらサリブン峰登山を開始したい。
2012年4月27日 サリブン峰ベースキャンプにて 野口健