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夢に向かって~ネパール人青年ウパカルの歩み~ 第3章 野口健との出会い

ポカラ小学校

2020/11/21

夢に向かって~ネパール人青年ウパカルの歩み~ 第3章 野口健との出会い

富士山のゴミ拾いの拠点は、廃校を利用した「もりの学校」で行われている。その校舎で、お昼を食べながら参加者とスタッフでミーティングを行った。だが、これから野口が来るのだと思うと、食事もなかなか喉を通らない。皆が食事を食べ終わる頃、野口が部屋に入ってきた。
「ネパールは第二の故郷」と言っている野口は、満面の笑みでウパカルに話しかけてきてくれた。「登山家」という肩書きだったが、アスリートにありがちな威圧感は全くなかった。
ウパカルは、いかに自分が野口の本に助けられたかを話し始めていた。
「野口さんの本がなかったら、バイトも学校も続けていられなかったと思います」
そう言うと、野口は軽くこう返してきた。
「いや、それは僕の本のおかげじゃなくて、ウパさんが頑張ったからだよ」
そこからはネパールの話に。自分がポカラの出身だと告げると
「あそこから見えるマチャプチャレは凄い綺麗だよね。また行きたいな」
と言った。日本人から地元の山の名前が出て来るとは思わなかった。野口は、
「一緒に、ネパールで清掃登山をやろうよ」とも言ってくれた。
はじめからウパカルは、野口に、ネパールの友人以上の親しみを感じていた。
親し気に話す二人を参加者たちは、昔からの友達同士だと見ていたのかもしれない。だからという訳ではないだろうが、清掃活動中、彼らはウパカルに親切だった。
日本と日本人に絶望しかけていたウパカルの心が、パッと明るくなった。そんな夢のような時間はあっという間に過ぎた。
帰り際に、野口は「また、必ず会おう」と言って握手をしてくれた。その時の手の力強さは、今でもしっかり覚えている。

岡山に帰ると現実の生活が待っていた。だが「富士清掃登山に再び参加する」という目標ができたウパカルは、勉強とバイトに以前よりも力が入るようになった。それでも、学費と家賃は、いつもギリギリでの支払い。食費を削るため、バイト先の「まかない」だけで一日の食事を済ませることもあった。大学のクラスメイトたちは、授業が終わると飲みに誘ってくれていたが、ウパカルは断り続けていたので声を掛けてこなくなった。
長期休暇の前には、旅行の計画の話が聞こえてきたが、ウパカルには別世界だった。それでも悲しくはなかった。ウパカルには、「富士山清掃登山」という最高の目標があったからだ。
そんなウパカルの何が悪かったのだろうか。バイト先のいじめは、ますますエスカレートしてきた。
「ネパールって世界一貧乏な国だったんだ。世界一幸せの国かと勘違いしてたわ」
そう言われた後で、足を踏まれたこともあった。それまでのウパカルなら落ち込んでいたことだろう。でもその時は「こんなレベルの低い奴らをいつか見返してやろう」と考えられるようになっていた。
仕事もテキパキとこなせるようになっていたので、常連さんたちからも可愛がられた。わざわざ旅先からのお土産を持って来てくれる人もいた。店長は
「こんなにお客さんを増やしてくれた」
と異例の時給アップをしてくれた。毎晩休むことなく閉店まで働いていた。それでも貯金は、ほとんどなく、半期に一度の授業料の支払いのことを考えると、不安しか覚えなかった。

ある時、韓国のクラスメイトのフェイスブックを見て愕然とした。旅先での投稿に書き込んであるコメントに「学校からの奨学金で遊びまわっているぜー」と書かれていたのだ。彼は裕福な家庭で親からもしっかり仕送りもされているはず。それにもかかわらず、学校から返金不要の奨学金を受け取っていたのだった。何度もディズニーランドやユニバーサルスタジオから写真を投稿できていた訳がわかった。その一方で、ネパール人には奨学金制度の話など一度もなかった。
ウパカルは学長にこのフェイスブックの内容と抗議文を送った。教授たちもここまでの格差があるとは知らなかったようだ。
産業学部部長である濱家輝雄先生が駆けつけてくれた。濱家先生は、その後、父親のようにウパカルを見守り続けてくれた。「ちゃんと食べているか?」が、先生からウパカルへのいつもの挨拶だった。当時、先生から頂いた「五条の徳」は、その後ウパカルが生きて行く上での指針となった。それはこんな教えだ。

① 仁=おもいやり
② 義=裏切らない
③ 礼=尊敬、尊重
④ 知=考える、正しいことを見極める
⑤ 信=信用、信頼関係。

ウパカル 富士山清掃の様子富士山清掃の様子

その後、ウパカルは何度も富士山清掃に参加することとなるその後、ウパカルは何度も富士山清掃に参加することとなる

力になってくれた恩師、濱家先生と力になってくれた恩師、濱家先生と。

写真 ウパカル 文責 大石昭弘

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