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2013年ヒマラヤ遠征

ヒマラヤで「食べる」を知る

2013年ヒマラヤ遠征

2013/04/19

ヒマラヤで「食べる」を知る

今回はロールワリング地方からテシラプツァ峠(5755M)を越えクンブ地方に向かいますが、まずは峠越えの前にヤルンリィー峰(5630M)とラムドゥン峰(5930M)への登山。そして世界最大級と言われているツォ・ロルパ氷河湖の視察。2008年1月にツォ・ロルパ氷河湖の視察を行っていましたが、あれから5年が経ち現状はどうなっているのだろうか。5月中旬にタイのチェンマイで開催される「第2回アジア・太平洋水サミット」にて気候変動によるヒマラヤの氷河融解問題について発表をする予定となっているので記録映像や写真を可能な限り撮影したい。そして帰国後に氷河湖の専門家の先生方に分析して頂けたらと思います。(第1回アジア・太平洋水サミットの様子はこちらより)
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ただ、ベティングからナーまでやってきましたが、いかんせん天候が安定しない。晴れるのは午前中のみで午後からは決まって雪。今日は高所順応を兼ねてヤルンリーのベースキャンプに向かいましたが、途中から吹雪となりナーに戻ってきた。シェルパの話ではこの春は特に雪が多いそうで(毎年同じことを言われている気がする)雪崩には気をつけたほうがいいと。確かに気温はそれほど低くないので、雪崩にとっては発生しやすい条件がそろっている。
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不安定な天候が続くヒマラヤ

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ヤルンリーのベースキャンプを目指すもこの後に吹雪となり戻る

2年前にエベレストで雪崩に直撃されたあの生々しい記憶が未だに脳裏に焼き付いているだけに、雪の斜面が続くときはどうしたって気になる。僕がヒマラヤで最も恐れているのはそう、雪崩。

それは、なんの予告もなく突如やってくるのだが、そのくせにあまりにもシリアス過ぎる。当たり前だけれど「ちょっと待ってよ」がない。いきなり押しかけてきて「問答無用!」とばかりにピストルの引き金を引いたあの青年将校のような、あまりにも一方的な大自然からの通達に我々は成す術もなく、ただただ身を運命に任せるしかない。ガンジーの無抵抗主義のように。雪崩に巻き込まれた経験があれば皆わかるはずだ。人間の存在などこの大自然の中では点でしかないわけで、人間如きが勝負できる相手ではないということも。エベレストで雪崩が襲ってきたときには「あ~あ、これは終わったな」と素直に諦めていた、というよりも数秒後に身に起きる事態を客観的に理解していた。

大半の出来事ならば「何が何でも助かってやろう!死んでたまるか!」と死の世界に抵抗するのだろ。昔、雲仙普賢岳の火砕流が報道陣を襲った時の映像をみましたが、あのモクモクとしたまるで怒り狂った巨大な生き物(化け物)が襲いかかってくる、まさにあれ。色がグレーから真っ白に変わっただけ。慌てふためき恐怖のあまり泣き叫ぶといったものではなく(そんな時間的余裕もない)、「あ~、やっちゃった。エベレストが最後の山だったんだ。なるほど。でも高尾山が最後じゃなくてまだよかった」などと妙に納得していた(高尾山をバカにしているわけじゃない)。淡々と、そして瞬間的に死への覚悟を決める、そんな世界観でした。

僕は2回、ヒマラヤで雪崩の洗礼を受け奇跡的に助かっていますが、3度目はアウトだろうなぁ~と思う。今までは、日頃の行いの良さ?によって神様に救われてきましたが、もうそろそろ化けの皮が剥がれ神様にも素性がバレているだろうし、いずれにせよそう幸運が続く訳もなく。だから雪崩だけはゴメン。

雪降りが続くと山小屋やテントにこもって日本酒をチビリチビリとやる。頭の中の切り替えさえ出来れば悪天候での停滞も、そう悪いことばかりじゃない。どれだけ日本酒さんが僕らを救ってくれたことか。

ヒマラヤに来る前に日本酒マイスター(自称)の町野眞人さんや亮さんと秋田の酒蔵巡りをしましたが、本当に素敵な旅だった。その時に訪れた酒蔵さんの日本酒を町野さんがヒマラヤ用にペットボトル(ヒマラヤスペシャル)に詰めてくださり僕の旅の友になりました。寒い夜にテントや山小屋のなかでの一杯はそれこそ本当にスペシャルな瞬間。飲みすぎると高山病になるので本当にチビチビですが。
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悪天候のときはチビチビやるのが一番

あっ、そうそう、昨日、ヤクの死骸が発見され、あっという間に村人に解体されましたが、その迫力にただただ圧倒された。村人が内臓の中に手を突っ込み「まだ温かい」と嬉しそうだった。つまり「フレッシュミート」ってこと。「今晩はご馳走だ!」と、ニコニコしながら実にテキパキと解体作業が続くのですが、そんな彼らの穏やかな表情と、目の前で展開されている内臓が「ピチャピチャ」と音を立てながら引きずり出されている光景とのギャップというか、コントラストとでも言うのか。日本ではスルーされがちな光景ですが、しかし「生きる」ということは「食べる」という事で、つまり「食べる」という事はまさに目の前で展開されている「解体」の延長線上にあるわけでね。僕ら日本人の多くは「見ていない」または「見ようとしていない」だけだ。それにしてもヤクは巨大なだけに解体作業は迫力があった、ということはクジラの解体はどうなってしまうのだろうか、などとそんな事をボンヤリ考えながら最後まで見入ってしまった。
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ヤクの解体ショーが始まる
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内蔵まで全て無駄なく食べる

それにしてもいつまでこの不安定な天候が続くのかなぁ~。5月15日にはタイ入りしなければなりませんが、果たして本当に間に合うのかな?しかし、山の天候は僕らの都合に合わせてくれるわけもなく、僕らが山に合わせるものだから、こればっかりはどうしようもない。シェルパのデェンディーの一言「ケンさんは日本では忙しいからヒマラヤでリラックスして。天気が悪いのは神様からのプレゼントだよ」。なるほど、さすがデェンディー、いいこと言ってくれるじゃないか。流石は20年来の友。
 
ただ、問題が一つある。それはあまり待機が続くと日本酒が無くなっちゃう・・・。実はそれが一番困るんだわなぁ~。いやはや。
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それにしても、よく降るなあ

2013年4月18日 ナー村にて 野口健

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